1 2年目の抜擢

今年から営業所を任された教え子が苦戦しています。入社して2年になる少し前に、営業成績が抜きんでていたため、新設の営業所のトップに抜擢されました。いきなりリーダーになったので、戸惑うばかりのようです。当然こうなると予想されていたことでした。

一社員としての成績は自分一人で何とかなる領域が大きかったでしょうが、リーダーになったら、自分一人でできることなど限られます。入社した中でも飛びぬけていたとはいえ、こんな新人に営業所を任せる会社も、それなりに事情を抱えているのでしょう。

卒業後、数か月して、どうしても営業成績が一番になれないと連絡してきました。特別に負けず嫌いの性格ではありませんから、何かあったに違いありません。ひとまず、どんな状況なのかを聞くことにしました。それ以降、連絡が断続的に続いています。

     

2 営業成績についての違和感

どうやら営業成績が一番の人の接客態度が好きになれないようでした。言葉づかいからして、おかしいと言うのです。例にあげた話が本当なら、たしかにおかしいと思いました。事務処理もかなりいい加減だというのです。たしかに、そういう人はいます。

しかし好きになれないという程度のことでした。違和感があるのです。自分は丁寧に対応して、少なくとも言葉づかいも事務処理も、おかしくないはずだと感じているようでした。しかしいつも営業成績がその人に負けるのです。何でだろうということになります。

会社には営業マニュアルがありませんでした。必要なルールはありますし、手続き方法もある程度は決まっています。しかしかなり自由な会社でした。やるべきことは日々の業務の仕組みがどうなっているかを記述して、自分用の営業マニュアルを作ることです。

      

3 秘密は営業マニュアルの作成

営業マニュアルを作って改善していけば、成果が上がることでしょう。実際、記述の仕方を教え、改善の検討を何度かしていくと、数か月後、一番であることは当然のことになり、そこからは圧倒していきました。社長の目に留まってもおかしくありません。

このこと自体は素晴らしいことでした。会社側は、営業マニュアルという秘密があることに気がつかずに、どうやら成績をみて過大評価をしたのではないかと思います。いきなりリーダーになれるはずありませんし、失敗は確実でした。実際、そうなっています。

まじめな人間は、それでも何とかしようとするものです。残業がどんどん増えていきます。体がだんだん持たなくなってきていました。やっと、明らかにおかしいと気がついたようです。リーダーになるのは簡単ではありません。いわゆるSOSがきたところです。

さあ、どうしましょうか。本人は、まだ頭が切り替わっていません。おかしいのには気がつきましたが、まだ新たな考えを獲得できずにいます。それにしても、こういう経験を20代前半にさせるのですから、少しずつ日本も変わってきたのでしょう。
(この項、続きます。)

      

      

1 石膏デッサンの意義

私たちは、普段から人間の顔を見ていますから、様々な顔を見ても、その共通性を感じ取ることができます。人間らしい顔つきかどうか、判断できるということです。描いたものを見れば、人間の顔つきのおかしさは一目瞭然になります。前回はそんな話をしました。

ズレに気づくことが第一歩になって、それを直せるようになるのではないかと思います。これは私自身の経験から感じたことでした。石膏デッサンの意義を自分流にまとめると、こんな風だということです。絵の専門家から、そう言われたわけではありません。

ほかの分野からの類推なのです。何かしら、評価基準を持っていると、これはこうだと言いやすくなります。絶対ではなくても、ヒントが与えられているから大きく外れないとか、あるいはこうだと言いやすくなるということでしょう。

    

2 業務を構築する場合の評価基準

ヴァレリーが『ドガ・ダンスデッサン』で、友人の顔を知っているというけれども、描こうとすると、うまく描けない、私たちは描いてみないと本当に見ることにはならないのだ…、そんな話を書いていた気がします。これなど、評価基準のその先まで含む話です。

例えば、仕事の仕方、仕事の仕組みをどうしたらよいのか、アイデアを出してほしいと言われた場合、どういう人が有利になるでしょうか。おそらく現状の業務を記述したことのある人なら、新しい業務を記述して構築するのにすごく役に立つはずです。

そのときの前提になるはずの評価基準はどうやって得るのかが問題になります。友人の顔を描いたら、私たちはその顔が似ているかどうか、友人らしいかどうか判断できます。そうした評価基準に該当するものが、業務を構築する場合にもあるはずです。

     

3 「指導の効果」+「業務の評価基準」

現状の業務を記述した人なら、業務の記述がどうなっていれば、それが実際に運用できるだろう…ということがわかるはずです。もう一つの問題は、その業務の成果がどうなるかということになります。どうすれば、感覚としてわかるようになるのでしょうか。

これは実際のところ、簡単なことです。OJTをやって、業務を覚えてもらう経験をしてみれば、わかるようになります。どれだけ早く仕事が習得されるのか、どれだけスムーズにレベルが上がっていくのか、指導すれば、こうしたことが目の前で見えるのです。

無理なく習得できて、それがどんどんレベルアップしていく業務スタイルなら、成果が上がります。余裕が出てきたら、さらなる付加的な業務まで追加できることでしょう。指導を標準化していけば、業務自体の評価も感覚的にわかってきます。

OJTを効率的に実施するために、何をどんな手順で教えていくのがよいのか、指導者は十分に考えて、それをマニュアル化しておけば効果的です。指導の効果が上がるだけでなく、業務の評価基準が得られます。OJTマニュアルのもう一つの効能といえるでしょう。

     

     

1 業務マニュアル作成の効果

業務マニュアルをどう定義したらよいのか、困ることがあります。ときどき文書に業務を記述したものが業務マニュアルだという言い方をしたりしました。業務を記述することの効果がわかりやすいので、私はこの定義がいいなあと思っています。

業務を記述すること自体が効果をもたらすのです。業務が記述によって把握されることは、業務が見えることでもあります。業務が見えてくると、必ずといってよいほど、なんだか無駄なことをやっていたなあとか、気に入らないところが見えてくるのです。

仕事をしているときに気がつかなくても、記述しだすと、もっといい方法があるのに気づきます。記述することにより、おのずから改善策が見えてくるのです。現状の業務を記述しようと試みると、自然に改善案が出てくること、これが業務マニュアルの効果です。

      

2 改善とは違う新規モデルの構築

改善案というのは、プラットフォーム自体を変えるわけではありませんから、安定性があります。飛躍はしませんが、混乱もしないものです。その点で、新たな業務モデルの構築とは別次元のものといえます。あたらな業務を開発するのは簡単ではありません。

しかし業務をあたらに構築しようとする場合にも業務の記述が必要ですから、どうしてもある種の訓練が必要になります。業務がどう組み立てられているのか、どう記述すれば伝わるかの訓練です。この訓練法として現状の業務を記述することが一番効果的でしょう。

つまり業務マニュアルを作成することが、あたらな業務モデルを構築するときの基礎になります。ただし、別の問題が生じることになります。いままでの業務に大きな変化が加わることになりますから、最初は洗練されていませんし、簡単に定着もしません。  

      

3 「仮説⇒実行⇒検証」モデルに不可欠なマニュアル

新しいことをするときのフレームがあります。「仮説⇒実行⇒検証」モデルです。新たな業務の仕組みは仮説にすぎません。実行して検証することが必要です。いきなり業務マニュアルを作るのではなくて、小さな実践から始めることになります。

ポイントになるところを取り出して、実験的に新たな業務を取り入れていくのです。このとき実践に必要なのは業務マニュアルよりも、OJTでしょう。まだ仮説ですから、詰め切れていません。大雑把なところがあるときにはOJTで大枠を示すのが向いています。

新しい業務の趣旨を理解してもらい、各人に提案をしてもらうことを前提にして、仮にこうやったらいいと思っているという話になるでしょう。やってみて、おかしかったら教えてほしいということです。こういう手順を踏むと、新しい仕組みも安定してきます。

リーダーは新しい仕組みをOJTによって実践してもらい、その検証を経て、新たな仕組みを開発するということです。OJTを効率的に行うために、OJT用のマニュアルが必要になります。リーダー用の指針を記述したマニュアルがOJTマニュアルということです。

      

     

1 薄いほうがよいマニュアル

OJT用のマニュアル、指導用のマニュアルについて、何度か書きました。少し前に、何で業務マニュアルや操作マニュアルはセミナーで作成できないのに、このマニュアルだけは、その場で作れるのですかという質問がありました。

この点について、もっと焦点を絞って書いておいた方がいいかもしれません。何となく書いてはいましたが、作成時間がかなり違いますし、記述内容が大きく違います。内容にもよりけりですが、圧倒的に薄いですし、作成時間も短くて済みます。

圧倒的に薄くつくらなくてはいけないものですし、作成も短時間でできなくてはいけないのです。これは作成者の条件だとも言えます。指導者が使うときのことを考えると、薄いほうが良いのです。薄いものですから、内容がわかればすぐに作れます。

      

2 一番勉強になるのは指導者

OJT用のマニュアル、指導用のマニュアルというのは、指導するにふさわしい人が作るものだということです。指導者ならば、このケースではどうするのがいいのかと、ある程度わからなくてはなりません。それが見えてくれば、こうすればいいとなります。

(1)誰に指導するのか、(2)何を指導するのか、(3)指導実施の時間などの条件はどうか。まずこれらを明確にして、一番効果的なのはどんなものになるかを考えていきます。考える内容は基本的なことですし、この基本はどのケースでも大きく変わりません。

したがって、慣れてくれば、どんどん作れるようになります。コツのようなものがわかることが、マニュアル作成のスピードをあげることになります。最初はマニュアル作成者が指導に当たることになるでしょう。指導者が一番勉強になるはずです。

      

3 シンプル・簡潔が条件

マーケティングの場合でも、「誰に・何を・どのように」を考えることが一番ベースになります。指導する場合も同じです。「誰に・何を」が決まったら、指導環境、指導時間を考えて、どのように進めていったらいいかが決まってきます。

これが決められたら、あとは簡単です。何を、どんな順番で教えていくかがわかれば十分だということになります。指導する側は、教える内容に関して知っているはずですし、それは当然の前提といってよいでしょう。簡潔に記述すべきだということです。

指導する側は、ぱっと見て、こう進めていけばいいんだと確認できれば、それで事足ります。形式的に見れば、シンプルな業務フローに、ポイントを記述したといったイメージでしょう。シンプル・簡潔が条件ですから、内容が見えれば、すぐに作成できるのです。

      

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1 組織と属人的な強み

小規模な組織であるなら、属人的な仕事ぶりがウリになることはめずらしくありません。どのくらいの規模までなら、それがよくあることなのか、微妙な問題です。いずれにしても、すぐれた人がいる組織はうまくいっていることが多いように思います。

ところが上場していて、ある業界で強い会社の場合、小規模な組織とはもはや言えないでしょう。こうした会社の中に、歴史的にこの部門が強いという評価がなされている組織があります。もしかすると何か組織的な強みがあるのかもしれません。

いくつかのケースを見ると、サービスに関する強みは、ほとんどが属人的な強みと関連しているように感じます。あの人が、あるいはあの人たちが部門のトップにいるから、あの組織のあの部門は強いということがきわめて多いのです。

       

2 組織の改編で卓越したサービスが崩壊

新型コロナの感染が広がって以降、組織の改編が起こりやすくなりました。お客さんがいなくなれば、社員を遊ばせておくわけにもいきません。別の需要があるならば、そちらに人を振り向けてということは、当然やらなくてはならないことです。

こうやって別部門の仕事をするときに、伝統的に強かったはずの会社のある部門のことが見えてくることがあります。ちょっとした偶然から、そうした人たちから相談があったのです。たった一人がいなくなっただけで、仕事の質が激変することがわかりました。

あの人がいるから、この仕事がうまくいくというのは、仕事のできる若手なら当然のようにわかっています。その中核の人が、なんらかの理由で組織から離れる事態が起きたとき、若手に動揺が広がり、それを収めるのはほとんど無理なようにも見えました。

      

3 指導者用のマニュアルが必要

あれだけ出来る人がいるのですから、その人の負担を少しでも減らして、その分を若手の教育にあてておけばよかったのに…というケースが多いのです。部門の中核の人は、その前の中核の人から学んでいました。幸運にも卓越した人が重なって誕生したのです。

伝統的な強さの実態は、たまたま二人の優れた指導者が部門のトップをうまくバトンタッチでつないで、数十年にわたって信頼を作ってきたことにありました。これは偶然とも言える幸運だったと言えるでしょう。ところが会社側は、組織の強味だと見ていたのです。

指導者用のマニュアルを作っていたら、指導者の側もカンで指導していたことが、もっと明確になったことでしょう。もっと層の厚い、指導のノウハウをもった組織ができたはずなのです。指導のノウハウを持つことが、組織の強味になると思います。

      

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1 社員と指導者の能力アップが必要

指導者用のマニュアルについて、先日何回か書きました。OJTマニュアルという名称がないので、何と呼ぶのがいいのか、まだよくわからずにいます。指導者用のマニュアルとかOJT用のマニュアルと言えば伝わりますので、ひとまず様子を見ましょう。

会社の幹部クラスの人とちらっと話したら、コロナで在宅での仕事が拡大して、効率化にはなったけれどもね、今後が心配なんですよとおっしゃってました。それはそうでしょう。それでコロナが5類になったら、社員の能力アップをしないという話でした。

そんなことがあったので、何度か社員教育用にマニュアルが必要になるという話を書きました。指導者が使うマニュアルが必要だということです。細かい記述が必要ないので、すぐに作れますし、成果も見えます。指導者養成にも一番効果的なものの一つでしょう。

       

2 コツがつかめれば簡単に作れるマニュアル

じつのところ、研修でOJT用のマニュアルの講座というのは、ほとんどないようです。研修業界の主のような方に、この話をしたところ、それはどんなものでしょうかという風に聞かれました。もう5年くらい前だったでしょうか。

まだ名前もないようなマニュアルですから、成り立つのかなあと思いながら、説明したのでした。ところがやってみましょうとなったのです。驚きました。出足は好調だったのです。これは行けるかもしれないと思いました。実際の成果もあったのです。

講座内でOJTのマニュアルができますよと謳っていました。実際、会場にいらした方も、わずかなヒントを出すと、作成が進みます。できあがったマニュアルが会社で実際に使われるケースも出ていました。コツがつかめれば簡単に作れるのです。

       

3 5月30日にセミナー実施が決定

その後、この講座は迷走することになりました。コロナで、会場での講義が難しくなったのです。すでにその場でマニュアルが作れますという案内も出してありましたから、会場という前提が崩れると、講座が成り立たなくなります。

これは当面ダメかもしれないとも思いました。ところが何人かの方にお話を聞かせてもらったところ、コロナのときこそ、短期どころか短時間で人の教育ができないと困るとのこと。オンラインの講座でも、出来るでしょうとおっしゃっていただけたのです。

成り立たないと思った指導者用のマニュアル、OJT用のマニュアルの講座が、オンラインでも作れるように内容を作り替えて、何とか生き返りました。こうした経緯もあって、この講座は思い入れがあります。担当者もそうだったのかも知れません。

先週末、驚きをもって連絡を聞きました。5月30日に【新規所属者を最も早く戦力化するためのマニュアル作成と指導のノウハウ】という講座名で、追加実施したいとのこと。まだ案内もないはずです。たぶん最初の宣伝でしょう。ご興味ある方はぜひご参加を!

       

      

1 成果が上がるものがよいマニュアル

指導する側が、効果的な指導をするための方法やコツが簡潔に書かれたマニュアルがあったら、成果が上がるはずです。あるいはこれは逆かもしれません。成果が上がる方法やコツが示せたなら、効果的な指導者用のマニュアルだということになります。

マニュアルに共通する目的は何かと言えば、成果をあげることということになるでしょう。成果が上がるようにするためにマニュアルがある以上、成果が上がらなかったら、マニュアルがダメなのです。マニュアルの評価基準は成果ということになります。

名称が定着しているのは、業務をする人用、操作をする人用のマニュアルです。業務マニュアルと操作マニュアルという言葉なら聞いたことがあるでしょう。そして指導をする人用にマニュアルが必要なことも、だんだん認識されてきています。

      

2 組織での指導が不可欠

指導者のためのマニュアルが他のマニュアルと違うのは、まさに指導というものが業務や操作と違うからです。マニュアルを使うのは、業務をする人であり、操作をする人です。指導する人用のマニュアルは指導する人が使います。指導される人は使いません。

教えると言う場合、直接教えることが中心となります。OJT「On-the-Job Training」で行うことが一般的な方法です。そのためOJTマニュアルとか、トレーニングマニュアルと呼ばれてきました。ポイントは指導する側が利用するマニュアルということです。

強い会社ほど興味を示すのは当然でしょう。付加価値の高いビジネスの場合、優秀な個人に依存することが大きくなってきているからです。はじめから優秀というよりも、当該業務で抜きんでることが一般的ですから、優秀な人を組織が育てなくてはなりません。

     

3 指導の指針が必要

たとえば芸術は個人の資質に大きく依存しています。しかし個人で自分の好きにやればいいとは言えないのです。音楽家の場合を考えてみればわかる通り、一人で練習していたのでは、よほどのことがない限り超一流にはなれません。すぐれた指導者が必要です。

ビジネスでも同じでしょう。各分野に飛び抜けた人がいることは確かですが、そういう圧倒的な人がいくらでもいて、いつでも自分たちに協力してくれるなどということはありません。自社の業務に従事する抜きんでた人がいなくては、どうにもならないのです。

多くの人を素早く最低レベル以上に持っていくことも必要ですし、同時に、抜きんでた人を育てる必要があります。両方ともに訓練が必要だということです。両者のレベルは違いますが、ともに教える側の実力が問われています。なんらかの指針が必要なのです。

     

     

1 マニュアルの目的の違い

業務マニュアルとOJTやトレーニング用のマニュアルには、形式的に大きな違いがあります。それは目的の違いから生じるものです。両者を文書にして比較してみれば、両者の違いが明確にわかります。見分けがつかないということは、まずありません。

業務マニュアルの目的は、業務を標準化して、業務に従事する人に示すことにあります。したがって、マニュアルを利用する人は、業務に従事する人です。各人がすべてを読む必要がない場合もありますが、必要部分には必要な記述がなされています。

OJTマニュアルの場合、その目的が違います。利用者は指導する側です。成果をあげるために、どういう風に教えていくのがよいのか、それを検討してマニュアルにしています。指導する側が、どう指導するかを考えて、このマニュアルを作って実践するのです。

      

2 記録しておいて検証するための文書

指導する人が、OJTマニュアルを作ることは別に珍しくはありません。現状では、そちらが通常のことだと言えます。しかし組織として、教えるのがうまいということにしようとしたら、OJTマニュアルが必要になってくるのです。

教え方がうまいというのは、どんな点なのか、記録しておいて検証するために、OJTマニュアルという文書が大切な存在になります。業務マニュアルのように、内容をきっちり記述しなくてはいけないものではありません。逆に、それは好ましくないのです。

その場の状況に応じて、臨機応変に指導できなくては、意味がありません。しかし、守るべき基準もあります。これだけは習得できるようにしておかなくてはいけないとか、この順番で教えたほうが効果的だということです。

      

3 属人的になりがちな指導

OJTマニュアルの性格からお分かりになると思いますが、きわめてシンプルで量の少ないものになります。作るのも、そんなに苦労してはいけません。苦労しなくても、これで間違いないと言える程度にわかった領域でないと、うまく教えられないからです。

逆に、成果をあげたOJTのプログラムがあれば、教える方もレベルが上がっていきます。教えることによって、自分の理解も深まることはよくあることです。組織が、質の高いOJTマニュアルを持っておくことは、不可欠なことだと言ってよいでしょう。

現状を見ると、まだOJTマニュアルを作成している組織はごく少数です。ごく一部の指導者は独自の仕組みをつくり上げて、それにそった指導をして成果をあげています。しかし記述されないため、属人的になりがちです。もったいないことだと思います。

       

1 仕組みと個別プログラムの違い

OJTマニュアルという言葉が定着していません。トレーニングマニュアルという言い方もあるようですが、いずれにしても、実態があまり明確に定義されないでいます。仕方ないかもしれません。実際に作っているのは、ごくわずかな組織だけです。

業務マニュアルの場合、仕組みを構築して、それを業務に展開するものです。標準的な仕事の仕方ですから、価値評価の基準は全体最適ということになります。こうすれば全体として成果が一番上がると思うという仕組みを作ることが目的だということです。

OJTマニュアルの場合、直接指導する個別の人たちが対象となります。その人たちがうまくいく方法を考えることです。個別プログラムと言ってよいでしょう。業務マニュアルの場合、業務に関わる人の全体が対象ですが、それよりも範囲が狭くなります。

       

2 2系統のトレーニング

OJTマニュアルの場合、2系統のトレーニングがあるという認識が必要です。一つは、標準的な業務をなるべく素早く身につけるためのトレーニング用のものです。もう一つは、飛び抜けた能力を発揮してもらうための個別トレーニング用になります。

両者の関係は、ピラミッドの基礎の部分と、その上の部分との違いです。新しく仕事を覚えるときには基礎を身につけなくてはなりません。これが飛躍のための前提条件になります。効率のよいトレーニングが必要不可欠と言ってよいでしょう。

一方、プロの演奏家にしろオリンピック選手にしろ、すぐれた指導者のもとで練習をするのが一般化しています。指導者がいなくては、飛躍することはむずかしいのです。組織では、その指導法をノウハウとして持っていることが大切になります。

     

3 教えながら学ぶための方法

基礎というものは、当然のようにベースにあるものですから、基礎を見て、その先の飛躍を考えるというのが一般的なアプローチといえるでしょう。しかし実際の状況を見ると、少し違ってきます。飛躍した人が何を基礎にしてきたかが大切になるのです。

指導する側も、この点を十分に理解しておく必要があります。訓練法がすでに確立されている分野なら別ですが、つねに変化する業務の場合、飛躍した人を育てられるようにならなくては、基礎的な訓練法を確立することができないのです。

飛躍した人を育てることが指導する側の目標といってよいでしょう。そのためには自分のレベルアップをつねに考えなくてはなりません。教えながら学ぶことになります。自らを飛躍するためにも、その方法を記述して検証していくことが不可欠だと言えるでしょう。

       

1 スタートは現状の仕事を記録すること

業務マニュアルを作り出した人がいます。相談がありました。はじめの質問は、現状の仕事の仕方を記録しだしていますが、それでいいのでしょうかという素朴なものです。それでいいですと答えました。そこからスタートするしかありません。

いったん現在の自分の仕事をふりかえるために、現状を記録したほうがよいでしょう。その過程で、現在の仕事の仕方が最上でないことに気がつくはずです。その場合でも、現状の記録を取っておくほうが良いと思います。二段階の方法を採ったほうがよいからです。

まず現状の仕事の仕方を記録することが安定性の基礎になります。実際にそれで仕事ができているのですから、効率性の面で最上でなくても、ひとまず合格点の可能性が高いでしょう。その記録が手元に残っていることは、ひと安心です。

      

2 改革を目的とする場合

業務マニュアルを作ろうとしたら、まずは現在の仕事の仕方を記述しておくことからはじまります。この記録があれば、思いつきをつぎつぎ反映させた仕事を仕組みを考えて記録しても、混乱しません。戻るべき基礎の記録が残されているからです。

わずかな手順の変化や一部の組み換えなら、新規の仕組みがトラブルを起こすことはまずありません。ところが、いままで業務マニュアルなどなかったという組織が、思い立って業務マニュアルをつくろうという場合、業務がまずいことになってることが多いのです。

さやかな改善ではどうにもなりません。改革と言っていいような、おおきな変化をもたらす新しい仕組みを作ることになります。そのとき、新しい仕組みの方が圧倒的な成果をあげようという目的があるのです。しかし簡単に行くはずないこともおわかりでしょう。

   

3 新しい仕組みへの一番のヒント

人間は論理的で効率的でないと、長期で見るとやる気を失います。ただし、どこかしら不合理なところもあるものです。何らかの変化が必要ですし、効率一本やりは、かえって脆さにもなります。業務を紙上で設計すると、何かが抜け落ちることがあるのです。

現状を分析するとき、その代案があると非常にやりやすくなります。こうするのがよいというアイデアを盛り込んだ、いわゆる改革案を記述して、現状の仕組みと較べてみることが重要です。現状に対する細かな批判では済まないことに気づきやすくなります。

様々な点を考慮すべきなのは、当然のことです。しかし現状を記述しないまま新しい仕組みを考えることにはリスクがあるでしょう。反省する基礎(つまり現状の業務)があることは有利に働きます。現状の業務が一番のヒントをくれるからです。