■敗北の原因、東芝に限らない問題:「ミスター半導体」西澤潤一の指摘

     

1 「ミスター半導体」西澤潤一

西澤潤一という学者を知らない人が多くなっています。ノーベル賞を獲るのは当然、そんなレベルではないという存在でした。残念ながら受賞もされず、評価もまだ圧倒的ではありません。しかし長期で見れば、この人が評価をされることになると思います。

ミスター半導体とも呼ばれる西澤が、2010年に出した『生み出す力』に、あらあらという話を書いていました。関連したお仕事をしている人から、間接的なお話を聞いていましたし、ある種の常識ではありましたが、裏づけもないので黙っていたことです。

バブル崩壊の後、[東芝の半導体の優秀な技術者がこぞって韓国のサムスン電子に引き抜かれ][世界一のシェアを誇っていた日本の半導体は、たちまち韓国に追い抜かれてしまいました](p.43)というお話はご存知かもしれません。問題は原因です。

     

2 原因は組織のあり方

西澤は、[この原因は、東芝にあります。極めて優秀な技術者がいたのですが、その人の意見を会社は認めようとしなかった]と書いています。原因は東芝側にあること、それも圧倒的な人を大事にしなかったということ、これらは知られた話でした。

西澤は、[当時の日本は、勘違いをして世界をなめていました][既存の製品を改良する技術に長けているだけ。ゼロから何かを生み出すのは決して得意ではありません](p.45)と書いています。このあたりは、事情を知る人がその後、続々証言しました。

西澤は、はっきり「原因は、東芝にあります」と書いています。[会社組織のあり方に問題があったといえるでしょう。現場の努力や成果を、上の役職者が正しく判断できていない](p.44)ということです。その後、会社自体が傾いてしまいました。

     

3 「評価者を評価する仕組み」が不可欠

あまりにおかしかったという話を聞いていましたが、たぶん東芝に限りません。西澤は、この本の後半に「アイデアを生かすも殺すも評価しだい」(p.112)、「評価者を評価する仕組み」(p.116)という見出しを付けた文章を書いています。

この見出しだけで、ポイントは伝わることでしょう。かつての問題ではなくて、現在の問題でもあるということです。適切な評価がないからおかしなことになったのでした。評価というものは難しいことですから、それには評価者を評価するしかありません。

▼こうすれば、先見の明のある人だけが評価者として残ります。こういう人の評価は、まちがいなく価値があります。これをくりかえしていけば、全般的に正当な評価が出来るようになるはずです。有益な評価をするには、まずは評価者を評価せよ、つまりは評価後の行方を見極めよ、というわけです。 (p.119)

単純な成果主義では、利益という尺度に依存しすぎることになります。まだ将来を明確にできない段階で、評価するのが「先見の明」です。この評価の格差は極めて大きくなることでしょう。「評価者を評価する仕組み」が組織には不可欠だということになります。