■助詞「を」と「で」の違い:「空を飛ぶ」「海で泳ぐ」

     

1 「包み込まれた領域」と「区切られた領域」

助詞の「を」と「で」の違いを問われることがあります。「空を飛ぶ」と言うのに、「空で飛ぶ」とは言いません。「海を泳ぐ」というのも、ちょっとおかしいでしょう。「海で泳ぐ」ならば自然です。それでは「を」と「で」は、どう違うのでしょうか。

助詞「を」がつく言葉は、どんな概念が想定されるのか、「で」がつく言葉は、どうなのか、ここが問題です。「海を渡る」のように「海を」で問題ないケースもあります。「空」にしろ「海」にしろ、その扱い方が「を」と「で」で違うのです。

たとえば「図書館を借りる」と「図書館で借りる」を考えてみると、「図書館」の概念に違いがあるのが感じられることでしょう。図書館をすっぽり包み込むように全体を対象とする感覚と、図書館の中でのある区切られた領域がかかわる感覚の違いです。

     

2 「全体を表す概念」と「対象を区切る概念」

「空を飛ぶ」なら、空を自由に飛び回るニュアンス、「海を渡る」なら、海の端から端へと移動していくニュアンスがあります。ここでは「空」も「海」も包み込むように大きくとらえられています。「空」も「海」も、全体を表す概念だということです。

「海で泳ぐ」「プールで泳ぐ」のように「で」がつく場合、「海」や「プール」は全体概念を表しません。「海の中」「プールの中」のことです。助詞「で」は、「20時で閉店になります」や「新宿駅で降りる」のように、対象を区切る概念を示します。

海の限られた領域、プールの限られた領域、時間でいえば区切りまでの期限、路線でいえば区切りの場所を示します。「で」がつく対象の場合、全体を表しません。対象とされるものの内部でのことであり、区切られた領域が対象となっています。

      

3 「絶対的な全体概念」と「選択された限定概念」

「空を飛ぶ」と「海で泳ぐ」における「を」と「で」の違いはわかったことでしょう。私たちは感覚的にわかっているのです。「を」は対象の全体像を表し、「で」は全体像の中の領域を表します。さらに、別の言い方での説明を追記して、補強しておきましょう。

「鈴木選手はオリンピックで金メダルを獲得した」の場合、「オリンピックで」から「なになにオリンピック」や「オリンピックのある種目」が思い浮かびます。全体の中のある部分です。「金メダルを」ならば、対象のある部分ではなくて全体の概念になります。

「どこどこで・誰を」(新宿で鈴木さんを)ならば、場所が選択され、対象は絶対的なもの。「なになにで・誰を」(夢で鈴木さんを)の場合でも、場面・物事が選択され、対象は絶対的な概念です。選択された限定概念と、絶対的な全体概念の違いがあります。

日本語の文法書では、かなり難しいことが書かれていました。その説明がよくわからなかったのです。私たちは使い分けが問題なくできているのに、説明がわからないのはヘンでしょう。上記の説明ならわかると言われたので、書いてみました。さて、どうでしょう。

     

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