■「は」と「が」の違いと判別:「昔々あるところに…」の桃太郎の話から

     

1 「は」と「が」の違い

「桃太郎」の話のはじまりには、いくつかの違いがあるようですが、だいたいこんな感じでしょう。「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ柴狩りに、おばあさんは川に洗濯に行きました」。ここで問題になるのは助詞です。

はじめの「おじいさんとおばあさん」には「が」がつき、そのあとに出てくる「おじいさん」「おばあさん」には「は」がついています。「は」と「が」の違いを説明するときの素材になりました。先に「が」がついて、その後「は」がつくのは自然です。

この点について、未知の対象には「が」がつき、そのあと既知になったら「は」がつくという考えがありました。これで明確な説明ができるのなら楽ですが、「未知」と「既知」との判別が簡単ではありません。明確に判別できない事例があるからのです。

     

2 既知と未知は却下

「あなたのお嫁さんは、私が探します」という文では、まだ見ぬ「あなたのお嫁さん」に「は」がつき、知り合いであるはずの「私」には「が」がついています。まだ見ぬ人は「未知」なのではないか、知り合いの人は「既知」だろうと、そう感じるのです。

「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが」という場合、「おじいさんとおばあさん」が物語に登場するわけですから、最初の場面では「未知」でしょう。その感覚で行くと、まだ見ぬ人は「未知」のはずです。それは違うと言われると、混乱します。

「未知」と「既知」という概念は、明確に使い分けられるものではないということです。使い分けが明確にできない概念をもとに、「は」と「が」の機能説明をするのは無理でしょう。これでは一般の人が使える基準になりません。既知と未知は却下となります。

     

3 特定と選出

なぜ「昔々あるところにおじいさんとおばあさん」ときたら、「が」がつくのでしょうか。「昔々」の「あるところ」ですから、不特定の場面だと言えます。不特定の場面にいる人を登場させるときに、まずなされるのは、この人ですよと選び出すことです。

選び出した後なら、この人を特定できます。最初から特定できそうな場面であれば、「が」をつけなくても、おかしな感じはしません。「3月11日の大地震のときに、おじいさんとおばあさんは仙台にいました」というのでしたら、ヘンではないのです。

桃太郎の「おじいさんとおばあさん」は「昔々あるところに」だったので、「が」がつきました。「3月11日の大地震のときに」のように日が限定されますから、この場合、「おじいさんとおばあさんは」と、いきなり特定してもおかしな感じはしません。

特定可能かどうかが問題です。あなたという特定の人のお嫁さんだから、「あなたのお嫁さんは」となります。誰が探すのか、選出されたのは「私」でした。自分で自分を選び出すので意思を感じます。特定するなら「は」、選出ならば「が」がつくということです。