■主題概念で文を把握することのリスク:「アミラーゼ問題」から見える問題

      

1 強くなってきた通説の影響力

日本語文法の通説的な見解では、「主題」が重要な要素と扱われます。『基礎日本語文法』では[文の組み立ては、複雑かつ多様なものであるが、その骨格をなすものは、「述語」、「補足語」、「修飾語」、「主題」である](p.3:1989年版)と書かれていました。

学校文法の「主語」を排除しています。主題で考えようという傾向があるのです。実際の学校の講義では、文法がきちんと教えられていません。ただ、何となく感じることは、学校文法よりも通説の影響が強くなりつつあるなあということです。

学校文法の詰めが甘いため、妙なことになりました。外国人向けの入門用の解説が日本人の学生向けに転用されてきて、その悪影響が出ています。主題には「は」がつくのが原則だとされるため、当然のように記述された「は」を重視することになってきたのです。

       

2 アミラーゼ問題の正解率の低さ

「は」がついていたら主題となります…と言ったところで、それが何の役に立つのでしょうか。読解にも記述にも、役に立ちません。馬鹿げた形式主義というべきです。読み書きに役立つということならば、文の中核となるのは文末とその主体というべきでしょう。

新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』に「アミラーゼ問題」という有名なドリルがあります。教科書の文章をもとに、意味内容を問うている問題です。これのどこが難しいのかと感じる人もかなりいるでしょう。しかし正解率は低いのです。

▼アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

*この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
【セルロースは(     )と形が違う。】
(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素

      

3 主題概念はオモチャの文法概念

例文を読んで、①「は」がついたら主題だ→②例文の主題は「アミラーゼという酵素は」と「セルロースは」になっている→③2つの主題が対比されているのだから、セルロースと違うのは「アミラーゼ」だ…という発想をする学生やビジネス人がかなりいるのです。

正しいと信じていますから、【セルロースは[アミラーゼ]と形が違う。】が間違いだと聞くと、何でですかと反発する者までいます。「は」がつくと主題だと何となく知っているのです。オモチャの文法なんだよ、実際には使えないよね、と言うことになります。

文末(B)と主体(S)の関係にキーワード(K)を加えると「アミラーゼは/デンプンを/分解する」となるよね、「分解できない」の方はどう?…と聞いてみると、しばらく考えて、ああ!「アミラーゼは/セルロースを/分解できない」だと叫ぶことになるのです。

S【アミラーゼという酵素は】/K【グルコースがつながってできたデンプンを】/B【分解する】が、(S【アミラーゼは】)/K【同じグルコースからできていても、形の違うセルロースを】/B【分解できない】。ポイントは文末の主体を考えることなのです。

       

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