■日本語の強調形:日本語の文法分析

      

1 「ある・いる」で「何」と「誰」を区別

今週も日経新聞の社説を使って、文法分析をやってみましょう。以下は2021年12月13日の「WTO加盟20年の中国に透明性が必要だ」の最初の部分です。

▼中国は2022年の経済運営を巡る中央経済工作会議で、景気への配慮を通じて安定を目指す方針を打ち出した。例年以上に安定を強調した裏には、経済の下押し圧力の高さがある。
一方、予想を上回る景気減速は、習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が主因だという事実は素通りされた。いわば「政策不況」を克服する前提は、透明性の確保にあるのは間違いない。

【主役:中国は】【TPO :2022年の経済運営を巡る中央経済工作会議で】【補足:景気への配慮を通じて安定を目指す方針を】【文末:打ち出した】。「誰は・どの場で・何を・どうした」の形です。

【補足:例年以上に安定を強調した裏には】【主役:経済の下押し圧力の高さが】【文末:ある】。「何に(は)・何が・ある」の形。「どこに・何が・ある」「どこに・誰が・いる」と同じ類型です。日本語では「ある」と「いる」とで「何」と「誰」を分けます。

     

2 「景気減速は・経済政策が・主因だ」

【予想を上回る景気減速は、習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が主因だという事実は素通りされた】。これは【主役:予想を上回る景気減速は、習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が主因だという事実は】【文末:素通りされた】です。

問題は主役の「という事実は」の前の部分の構造です。【予想を上回る景気減速は、習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が主因だ】を取り出して、単独の文とした場合、この文の構造がどうなっているのか、分析できるでしょうか。

ひとまず【予想を上回る景気減速は/、習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が/主因だ】と区分されそうです。「景気減速は・経済政策が・主因だ」という場合、主役の言葉が何になるかが問題になります。「景気減速は」なのか「経済政策が」なのか。

文末の主体となるのが主役の言葉です。そうなると「主因だ」というのは「経済政策が」の方です。センテンス内の言葉で目立っているのは、「景気減速は」のほうでしょう。しかし「景気減速は」と「主因だ」には対応関係がありませんから、主役になりません。

    

3 強調形の構造

これは強調形です。日本語の場合、強調したい言葉に「は」を接続して文頭に出し手強調形を作ります。【予想を上回る景気減速は】というのは強調語句です。元の形はどうだったのでしょうか。助詞が「は」でなく、文頭にもなかった可能性があります。

標準形なら「習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が・予想を上回る景気減速の主因だ」でしょう。この文の中の「予想を上回る景気減速の」を強調する場合、助詞「の」を「は」に代えて、「予想を上回る景気減速は」を文頭に出せばよいのです。

【強調:予想を上回る景気減速は】【主役:習近平政権が説明抜きに突如打ち出した経済政策が】【文末:主因だ】となります。その次の文は、【主役:いわば「政策不況」を克服する前提は[←が]透明性の確保にあるのは】【文末:間違いない】です。

    

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