■『日本語の世界 第6巻 日本語の文法』を読む 第5回

     

1 「提示」と「説明」

北原保雄『日本語の文法』第五章「文の構造(二)-いわゆる複文・重文などの場合-」では、最初に文の種類が示され、文構造の種類が示されています。しかしポイントは、個別の例文の方にありそうです。北原はこの章で、たくさんの例文を並べています。

たとえば「観客がとてもよく入った今日の甲子園球場であります。」という文をどう考えたらよいでしょうか。北原は[主題に相当する部分が省略された表現だと一応は考えられる。しかし、そう考えるのは、やはり無理であろう](p.185)と書いています。

では、どう考えるべきなのでしょうか。「観客がとてもよく入った」が「説明」領域、「今日の甲子園球場であります。」が提示だとのこと。これを変形させると、「今日の甲子園球場は」(提示)+「観客がとてもよく入った」(説明)になるとのことでした。

     

2 「喚体構文」

例文を「提示」と「説明」に分けて考えても、何か意味があるとは思えません。もっと大切なことがあります。「文の骨組み」「文の構造」です。「観客がとてもよく入った今日の甲子園球場であります。」の骨格になるのは「甲子園球場であります」でしょう。

「観客がとてもよく入った」が「甲子園球場」に係り、「今日の」も「甲子園球場」に係っていることが重要です。こうした修飾がなされた「甲子園球場」に「であります」が付いた部分が文末になっています。つまりは例文全部が文末だということです。

この文末の主体は記述されていません。北原は省略と考えるのは無理だとして、これを独立した文形式だと言うのです。「とてもよく晴れた甲子園球場であります」という変形させた例文をあげて、同じ形式の「喚体構文」であると記しています(pp..186-187)。

     

3 主要ならざる構文の解説

日本語の場合、わかることは記さない、重複した記述を避けようとする力が強く働きます。文末を見れば主体が推定されますから、文脈から主体がわかる場合には、記述されません。北原のあげた例文は、文脈を考慮しないで、切りとった文です。

「今後も忘れられない場所になった。」を先において、続けて「観客がとてもよく入った今日の甲子園球場であります。」とあれば、後の例文の主体は「(私の)忘れられない場所は」となります。「とてもよく晴れた甲子園球場であります」の場合も同じです。

北原は第四章で、従来の学校文法のあげる成分に異議を申し立てた上で、五文型の例をあげていました。当然ながら主要な成分の組み合わせが五文型を作ります。日本語文法でも主要な成分を抽出すべきでしょう。それをしてから文構造の種類を論じるべきでした。

北原の示す「修飾=被修飾構文」「接続=被接続構文」「並立=非並立構文」などの構文は、五文型に相当するはずのない、主要ならざる構文です。構文を形成する主要成分の解説がなされ、それと関連した解説があれば、説得力を持ちえたかもしれません。