■『日本語の世界 第6巻 日本語の文法』を読む 第4回

     

1 学校文法からの転換

北原保雄『日本語の文法』第四章は「補充成分と修飾成分」です。1981年出版の本ですから、学校文法という言い方がしばしばでてきます。まだ学校での文法が影響力を持っていた時期でした。実際には、影響を持っているように見えた時代だったかもしれません。

北原は[今日の学校文法では、文の成分を主語・述語・修飾語・並立語・接続語・独立語などに分けるのが一般のようである](p.122)と確認しています。その上で、これらの言葉が「-語」という形式になっているが、「-成分」と呼ぶべきだと言うのです。

[新しい概念規定を与え]る場合には「-成分」、[従来の用い方に従う場合に]は「-語」と記載するとのルールを示しました。北原は、文の成分のうち[中でも連用修飾語は最も問題である](p.122)としています。従来の文法ではひどかったのでしょう。

    

2 補語概念

かつては並立語も接続語も連用修飾語と扱われていたようです。その後も[きわめて未整理な成分で異質なものが雑居しており]という状態だったらしく、[この成分を正しく整理しなくては、日本語の文構造を正確にとらえることはできない]と記します(p.123)。

北原は、「連用補語と連用修飾語」についての三上章の説明を引き、修飾を表す[モディファイ(modify)という英文法の術語を用いている]ことから連想を働かせることになりました。三上はいわゆる修飾語ではなく補語だという説明をしたのです。

「補語」は学校文法にはない成分ですが、英語の5文型で知られています。北原は[すべてをこの五つの文型に分類しおおせるものではなく][補語(complement)は曖昧]な概念であるといった問題点がありながらも、英語教育で使えている点を評価するのです。

    

3 5文型というシンプルなツール

北原は[日本語とはおのずから構造の異なる外国語の文法を無分別に猿真似するのはよくないことであるが、既成の日本語文法論を無思慮に鵜呑みにするのも、同じ程度に、よくないことである](p.129)と記しています。まっとうな意見でしょう。

▼英語の基本文型が名詞と動詞から構成されるもので、形容詞や副詞は修飾語句であるとしても、日本語の構文が同様にそうでなければならないことにはならない。しかし、英語でそうであり、それを不思議と感じないのであれば、日本語の場合はどうだろうと振り返って考えてみるのが、考え方の筋ではないか。 p.129

上記の点、保留が必要です。北原も[補語の一部の場合を除いて、名詞と動詞から構成されており、形容詞や副詞は修飾語句(modifier)とされている](p.128)と事前に記していました。北原は、補語に当たるものと修飾語を「補充成分と修飾成分」としています。

いまも日本語文法で補充成分や補語という用語が定着してはいません。問題点もありそうです。ただ、日本の中学校でも使っている英語の5文型のようなシンプルなツールが、日本語にも必要とされています。北原は、それを意識していたということです。

     

    

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