■梅棹忠夫「文明の生態史観」の発想:機能論的アプローチ

      

1 価値ある発想法

梅棹忠夫の「文明の生態史観」は、有名な論文でした。1957年に書かれたものですから、半世紀をとうに過ぎています。やはりというべきか、梅棹忠夫も、この論文も知らないという人が圧倒的多数になりました。しかしいまでも読む価値があります。

50頁足らずの文章ですし、読みやすいものです。普通に言う論文の文章ではありません。内容を見ると、論文と呼べるかどうか、わからなくなります。本人が論文と書いていますから、論文という言い方をしているだけです。では、どこに価値があるのでしょうか。

当然のことですが、読み方は自由です。ふと思い出して、読み返します。内容それ自体でなく、何かを考えるときのヒントとして、発想法として読んでいます。久しぶりに読んでみました。どんな発想で書かれたものなのか、ご紹介しておきたいと思います。

     

2 機能論的アプローチ

「系譜論と機能論」という項目があります。系譜論とは[文化を形づくるそれぞれの要素の系図をしめす]ものです。機能論は[それぞれの文化要素が、どのように組み合わさり、どのようにはたらいているか、ということ]を示します(p.104)。

建築に例えると、材木が吉野杉なのか米松なのかを言うのが系譜論であり、住宅であるのか学校であるのかを言うのが機能論です。機能論では[文化の素材の問題ではなくて、文化のデザインの問題]を対象とします。つまり[生活様式]を問うのです(p.104)。

さらに例えて言えば[箱の色を論ずる]のではなくて、[箱の大きさと形を問題にする](p.105)ことになります。こうした考えに基づいて現代の日本文化、日本人の生活様式の特徴を[高度の文明生活ということだとおもう]と梅棹は論じるのです(p.105)。

   

3 仮説の立て方のサンプル

「高度の文明生活」の実現に成功した国は、[まだ、ごくすくな]くて[日本と、西ヨーロッパの数か国とだけである](p.107)。梅棹は、この地域を第一地域と呼びます。そこでの[共通ののぞみ]は[「よりよいくらし」ということ]だと言うのです(p.127)。

「よりよいくらし」が目的であり、そのためには「高度の文明生活」を生活様式にすることになります。こうした生活様式の変化を「遷移(サクセッション)」と呼び、第一地域は[ちゃんとサクセッションが順序よく進行した地域]だと定義されるのです(p.126)。

この論文を読むと、機能論で考えてみるとどうなるか、どういう遷移をしていくべきかという発想で考えることになります。順序よく進行するために、どうしたらよいかを考えるのです。言い換えると「目的・あるべき様式・実行プロセス」を考えることになります。

こうした発想は、業務を考える場合にも、コンテンツを作る場合にも、使えるでしょう。マネジメントの基本にもかなっています。この論文は仮説にすぎません。しかし仮説の立て方が刺激を与えてくれるのです。当然ながら仮説がなければ、検証もできません。