■西堀栄三郎の洞察:最高のマネジメント論

      

1 創造性を発揮する組織を考察

ここ数週間、講座のテキストに追われています。業務のこと、業務マニュアルのこと、OJTのことなど、思いつきをメモしています。今回、あらためて西堀栄三郎のことをもう一度勉強し直さないといけないと思うようになりました。やはりすごい人です。

西堀は科学者でしたから数量的な発想を強く持っていた人でした。そういう人が、飛躍しようとするときに「ロジックでいかないあたりをもっと勉強せねばあかんな」と思ったというのです(『出る杭をのばす』)。これは科学の限界ということでもあります。

▼ロジックではいかぬものをロジックで理解しようと務めたのです。そして、ロジックでいかないものに対して何か一つのアサンプション(仮定)を置いてみるならば、そういうもの全部に解釈がついてしまうこともわかってきました。平行線は交わらずというアサンプションを置けばユークリッド幾何学が全部パーッと成り立つように、それ一つ認めさえしたら全部解釈がついてしまう。 pp..18-19 『出る杭をのばす』

こうした経験から、西堀は創造性を発揮するには、どうしたらよいのかと考えることになります。個人の創造性の発揮とともに、組織での創造性の発揮を考えることにもなりました。西堀のようにクリエイティブな人物が自分の経験に照らして考えているのです。

      

2 組織としての力

創造性を発揮する組織を考えることは、そのままマネジメントの問題になります。『出る杭をのばす』は1974年の本です。後半は野田一夫が聞き手になったインタビューを掲載しています。両者の格の違いはもうどうしようもないことです。西堀が圧倒しています。

野田は仰ぎ見るように「対談を終えて」で、西堀の文章を引用して、これらがマネジメントの中核に関わる話だという前提で解説を加えているのです。野田一夫は『現代の経営』を訳した人でもありました。ドラッカーを知ったうえで、西堀を高く評価しています。

西堀は、ヒマラヤのヤルン・カンの遠征隊の隊長として、絶対守るべき指示を出しました。[それは、「だれか一隊が頂上に上りえたならば、後の隊員は絶対に登頂に出してはならないぞ」ということです](p.28)。組織の目的は何かを考えれば、当然でしょう。

ここで西堀は「組織としての力」を問題にします。[みなが登頂できるのが一番よいにきまっている-という考えが根に残っている限り、本物にはなりません]。組織が一体化されていたら[すべての意味で同一価値である、と感じるのです](p.29)。

     

3 組織の目的

西堀は「共同の目的」を重視しています。みんなで「共同の目的」を果たすことが組織の成果です。では「会社の存在目的」は何かと考えることになります。[欧米人に聞いてみますと、おそらく、それは利潤追求に決まっている、と答えるだろうと思います]。

この点、ドラッカーは組織の目的が利潤追求であってはならず、「顧客の創造」であると考えました。利潤を事業永続の条件と考えたのです。西堀は利潤追求は組織の目的ではなくて、手段にすぎないと考えます。ただしドラッカーとは考えが違っているようです。

▼いかなる個人も何らかの形で社会に貢献したいと思っている、ということになります。(中略)
そのとき、個人が直接社会に働きかけるより、その中間に会社という組織-会社に限りませんが-があったほうが能率よく、あるいは効果的に、より社会への貢献がしやすいというところに、会社の真の存在意義があります。  pp..45-46 『出る杭をのばす』

ここから[「会社の繁栄とは、すべての関係者の個々人をしてより広く、より深く、より安全に仕事を楽しましめている状態」をいう]との洞察が出てきます(p.48)。西堀の場合、この本に限らず、マネジメントを考えるヒントがあちこちに示されているのです。

       

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