■助詞「は」「が」「の」の機能:「=」と「×」

     

1 「主体」という重要概念

「は」と「が」は主語に接続する代表的な助詞だといわれています。ところが日本語文法では主語という用語の概念が、収拾がつかないほどに混乱して使われてしまったため、「主語に接続する」という言い方が、正確に伝わりにくくなってしまっています。

通説的見解では、「は」の接続する言葉が主題であり、「が」の接続する言葉が主格だということになっているようです。主格を「主語」ということもあります。一度迷い道に入ると安定した概念が成立しにくくなるようです。標準的な用語が確立していません。

主語廃止を主張した三上章は『日本語の構文』18頁で、一般用語である「主体」という言い方をする亀井孝の文章を引用しました。[動詞の終止形は、むしろ未来に対する主体の一つの態度を表現する形である]。この主体という概念なら標準化できそうです。

     

2 「=」「≒」と表現できる「は・が」

主体とは、文末の主体となる言葉のことであり、おもに「は」「が」を接続させる形をとっています。中心的な機能は「=」あるいは「≒」と表現できます。ただし、英語のS+V+C構文の説明で、SとCがイコールの関係と表現されるのとは少し違うのです。

たとえば「カモメは飛んだ」「カモメが飛んだ」ならば、「飛んだのはカモメだ」「飛んだのがカモメだ」と言えます。「は」「が」が「=」あるいは「≒」として使われているから、こういうことが可能だということです。ただし、すぐに反論があるでしょう。

たとえば「クジラは哺乳類です」は「哺乳類はクジラです」になりません。どうなのだという反論があるかもしれません。これを文末におけるカテゴリー省略と見たいのです。「哺乳類です」というのは、正確に言えば「哺乳類に属する動物です」でしょう。

対象が特定されている場合、「クジラは哺乳類(に属する動物)です」となり、選択肢から選ぶ場合、「クジラが哺乳類(に属する動物)です」となります。それぞれ「哺乳類に属する動物はクジラです」「哺乳類に属する動物がクジラです」という形にできるのです。

     

3 「の」の一体化機能

計算問題を日本語で表現するとき、たとえば「5の20%は1です」「5の2倍が10です」という言い方になります。数式にすれば、「5×20%=1」「5×2=10」です。「は」「が」が「=」、「の」が掛け算のときの「×」に使われるのがおわかりでしょう。

「の」の場合、両者の一体的な関連づけがなされます。両者が関連づけされて全体が複合的な体言になるのです。日本語の場合、「AのB」ならば、重心はBに置かれます。「隣の家」なら「家」に重心があり、「家の隣」なら「隣」に重心があるということです。

助詞「は・が」の中心的な機能は「=」「≒」であり、おもに主体となる言葉に接続します。「の」の中心的な機能は、前後を一体化して関連づけることです。構文に影響するのは「は・が」であり、「の」は一体化機能により体言の複合体形式を作ります。