■マネジメントを考えるときの教科書:西堀栄三郎『石橋を叩けば渡れない』

      

1 『失敗の科学』と『失敗学のすすめ』の基礎

マニュー・サイドは『失敗の科学』で、自由市場のシステムが成功しているのは、失敗が少ないからでなくて、多いからだと記していました。失敗を基礎にして試行錯誤を繰り返し、改善を積み重ねていくことにより、大きな成果を得るということです。

一方、失敗を繰り返さないために、その要因を追求して、失敗をしない仕組みを作ること、つまり「知識化」について記したのが、畑村洋太郎の『失敗学のすすめ』でした。失敗をテーマにしたこの二冊の本は、読む価値のあるものです。

さらに、これらの基礎になる本があります。西堀栄三郎の『石橋を叩けば渡れない』です。初版は1972年に出されました。「ネガティブ・フィードバック、ポジティブ・フィードバック」と「エジソン方式とラングミア式」の章でエッセンスが語られています。

      

2 簡潔・的確な教科書

西堀の『石橋を叩けば渡れない』こそ、日本人の書いたマネジメントの最高の教科書であると思います。これだけ簡潔に、的確に書かれた本はそうありません。この本で語られていることと、大きく外れたマネジメントの本は、基本的に失格だと思っています。

『失敗の科学』のエッセンスについても、すでに記述されていました。[ファクターを一定にし](p.141)、[規則をこしらえて、その規則を守らせて、管理、監督をよくしてやりさえすれば、ちゃんと物をやるだろう、という考え方](p.142)を否定しています。

[もう一つ方法があります。それはいわゆるフィードバックの方法です][結果をにらんで、その基準と照らし合わせて、修正動作をしていく。逆に行くわけですから、これはネガティブ・フィードバックです](p.142)。こんな風に一筆書きしていきます。

     

3 必読のマネジメントの教科書

失敗だけから学ぶのではなくて、成功からも学ぶこと、これがポジティブ・フィードバックです。[創造性開発をやるときの、一番大きな効果的な方法は][成功の味をしめさせることが唯一のトレーニングの方法だ](p.143)ということになります。

▼フィードバックは「結果」に学ぶことであり、結果には失敗と成功とがある。失敗したら次のときからは失敗しないようにと失敗に十分に教えられ、成功したらますます成功するようにポジティブ・フィードバックをかける。 p.145

さらに[既成のものに対する不満というものが創造性と非常に関係があります]。[つまり、要求とか切迫感が先に出てきて、それに対する解決策として、何か新しい知識を要求するという形]をとるものを「エジソン式発明といっています」(p.150)。

一方、[新しい知識が生まれてきた、これを何かに使ってやろう、という形]が[ラングミア式発明]です。[エジソン式なのか、ラングミア式なのかをはっきりさせないといけない](p.151)と、西堀は注記します。必読の教科書というべき本です。