■日本の「大経済学者」高橋亀吉の方法:『私の実践経済学』
1 金森久雄による「大経済学者」認定
高橋亀吉というエコノミストをご存じでしょうか。ほとんどの人が知らないようです。金森久雄が『大経済学者に学べ』の中で、取り上げています。日本人で大経済学者とされたのは下村治と高橋の二人だけでした。金森は、高橋の系統のエコノミストと言えます。
金森の評価は[高橋の経済学は経験主義的であるが、下村理論は演繹的である](p.132)とのことです。下村は石油危機が起きた時、ゼロ成長論を唱えました。[経験派の私は現実を観察した結果、下村の演繹論に対して反対をした](p.132)とのこと。
金森は[下村に、「最も尊敬する経済学者は誰ですか」と尋ねたことがあるが、彼は、「外国ではハロッド、日本では高橋亀吉である」と答えた](p.132)と書いています。かつて高橋亀吉という人は、どこか圧倒的な人だという感じを与えていました。
2 高橋亀吉『私の実践経済学』
高橋の主著を一つに絞るのは無理ですが、『私の実践経済学』は外せないでしょう。[48年末の石油ショック以降]の[経済の現状診断、その前途観、そしてこれに処する対処等において]高橋の見方は少数派でしたが[はるかに真実に近かった]のです(はしがき)。
そのため[私流の経済診断の着想やカンや秘訣と言ったものは、いったいどこから生まれるのか、そのツボやコツは何か?]という質問に答えるために、この本は作られました。すでに結果の出ている時代のあれこれを素材にして語られているのが貴重です。
[経済は常に変動している]ので、それを[一時の「変態」とみるか、構造的「変化」とみるか]がポイントになります。変化ならば、抑えたり戻したりせずに[変化した方向に展開さすべき]であり、その立場で診断し処方箋を書かねばならない(p.25)のです。
3 お手本になる高橋の方法
『私の実践経済学』は高橋が亡くなる前年に出版されたものでした。この本についての最高の解説書は金森の『大経済学者に学べ』です。上記の変動についての部分を引用して、高橋のビジョンは[「経済は変化し、発展する」というもの](p.133)だと記します。
このバリエーションが高橋の本のメインテーマです。たとえば[景気変動が、単なる景気循環的なものなのか、それとも経済の成長そのものが構造的に上昇傾向に転じたのか](p.90)を問うています。これは今後も使えるでしょう。高橋の本はまだ現役なのです。
金森は高橋について、『大経済学者に学べ』で「世界最良の理論をかぎわける力」という見出しを立てました。[高橋経済学の特色は、優れた理論の裏づけがあることだ]と言い、[ケインズ理論をいち早く吸収し、日本に適用した](p.129)点を指摘しています。
同時に[歴史の利用の仕方が前向き]だというのも大切なポイントです。[過去の知識をもとにして、現在それがどの点で違っているかを認識し、新しい見方を出すというのが高橋流であった](p.128)と金森は評価しています。この人の方法は私のお手本です。