■IT化による利益は何か?:ノーベル賞級の心理学者の解答…の続き

      

1 業務はそろりそろりと変更

ゲイリー・クラインの『「洞察力」があらゆる問題を解決する』に提示されたIT化を判断するための4つのガイドラインについて、先日少し見てみました。システムの専門家には意味不明となりがちな話ですが、ビジネスモデルを考える人には別かもしれません。

クラインはIT化によって作業効率は上がるとは言いきれないと主張しています。業務が変わったら、ITシステムを作り替えなくてはならないからという理由です。業務の変更はいきなり決定的なものにはならず、やってみて、そろりそろりと変更していきます。

つねに変更していくということは、変更した標準の寿命が短いということです。ビジネスはつねに変更され、変更しない領域のみをITが担うのだとしたら限界があるということならば、そうでしょう。ベースになる作業ならば、そう変化がないこともあります。

IT化による成果に限界があると指摘することはまっとうですが、IT化を全否定するわけにはいきません。ではITを導入したとしましょう、それがどのくらい役立つというのかとクラインは問うのです。データベースが洞察を与えてくれるのではないでしょう。

     

2 アイデアの素材を抽出するかは疑問

4つのガイドラインのうち、第1のガイドラインに対し、効率は上がるとはいえず、期待しすぎてはいけないということ。第2のガイドラインについては、どのくらいITが役立つのかは疑問であり、たとえばデータベースはそれほど役立たないと指摘します。

IT化したところで、重要な手掛かりが明確に提示されるようにはなりませんよ…ということです。それどころかITに依存することが人間の洞察力を弱めるリスクがあると主張しています。そのうえITシステムが大切なものを見えなくしがちだというのです。

これがガイドライン3の「ITシステムは、無関係なデータをフィルターにかけて処理するはずである」ということになります。人間の脳が行っているように、アイデアの素材を抽出してくれないし、それどころかITの処理により、かえって目立たなくなるのです。

      

3 人間が使いこなせていない機械

ガイドライン4で、「ITシステムは、人が目的に向かって進行していることを管理してくれるはずである」と問いかけます。これなど目的を設定していなかったら無意味なガイドラインですが、個人でも組織でも飛び抜けた存在なら、目的を明確にするはずです。

目的を設定していたならば、それを管理することが可能なはずです。しかしシステムの専門家が目的を設定するわけではありません。目的を設定した人が、業務の管理の仕組みを考え、それがシステム化できるかどうかを問うということが普通のことでしょう。

クラインは[仮にプロジェクトを開始したあとに、その作業過程をどのように再構築するのかについてのアイディアが閃いたのならば、管理システムは障害となり得る](p.188)と書いています。ただ実際には、システムを障害化しているのは人間の方です。

人間は何かをするとき、思いつき、変更し、洗練させていきます。システムを存分に利用するには、もっと見通せなくてはいけません。だから人間は機械を上手に使いこなせないだろうし、システムも人間が使いこなせる道具になっていないという指摘になるのです。
【この項、まだ続きそうです。】