■人間を鍛えることが優先される:クライン『「洞察力」があらゆる問題を解決する』を参考に

      

1 ITシステムに解決策の指示は無理

クラインは『「洞察力」があらゆる問題を解決する』でIT化によって期待される4つのガイドラインあげ、それを基準にして「ITは人間の問題解決を支援できるのか?」と問うています。この問題提起にはどんな問題解決を支援するのかが書かれていません。

逆に答えから考えるほうがよさそうです。クラインは[私はシステムからの指示によって、物事がうまく運ぶとは思えない](p.190)と結論づけています。どうやら「問題解決を支援」してくれることとは、システムが人間に指示を出してくれることのようです。

AI化が進むと、人間を超える洞察力を発揮したITシステムができると思う人がいるかもしれません。それは無理だと言いたいようです。定量化を進めていくと、システムがいずれ人間を超える能力を発揮すると期待する人たちに対して、それを否定したのです。

医学であれ、経済学であれ、定量化を進めることによって発展してきました。したがってデータを根こそぎ集めて、定量化を工夫すれば、人間の洞察を超えるITシステムができると考える人は、たくさんいます。それを否定する人は、多数説ではないでしょう。

       

2 システムができるのは下働きの領域

クラインの『「洞察力」があらゆる問題を解決する』を読むと、まだ詰め切れていない話を読まされている気になります。しかし詰めが明確になれば、定量化に価値を置きすぎる見解の人たちに、激震を起こさせるだけの手ごわい見解になる気がしました。

これは将来のことですが、いまでもクラインのガイドラインは役立ちます。AIのような最先端のことよりも、ずっと基礎的な作業に対してシステム化がどういう役割を果たすのか、考える指針になるはずです。たとえば検索の機能はどんな役割を果たすでしょうか。

偉大な学者の全集を作るとき、原稿がすべて打ち込まれていたならば、検索機能を使えます。索引作りがとても容易になりますから、デジタル化は間違いなく役に立つのです。ただ索引項目として妥当な項目と、そうでないものとが区別されなくてはなりません。

こうした項目間の濃淡を判別するのは、全集の文章を読み込んで理解できている人でなくては上手くいかないでしょう。システムがこの作業を担うようになるとは思えません。人間の能力にかかっているということです。システムができるのは下働きにすぎません。

      

3 人間の側を鍛えることが必要

すでにこなれているデジタル技術を使うだけで、ずいぶん作業が楽になりますから、その機能を使わないのはもったいないことです。その先に行こうとした場合には、システムの利用が必要になるでしょう。しかし成果を飛躍的に拡大させるのは容易ではありません。

基礎的な下働きの領域の方こそ、システム化は役立ちます。そうなるとシステムは指示を出すものではなくて、優秀な道具ということになるでしょう。上手に使いこなすには人間側の工夫が求められます。ビジネスをモデル化し、業務の仕組みを作るのは人間です。

IT技術が進歩して、今まで不可能だったことが可能になったとしても、それを利用する鍵になるのは、人間が洞察力を持って考え出したものごとになるでしょう。人間の側を鍛える必要があるのです。どうしたらよいか、そのヒントがクラインの本にはあります。

     

This entry was posted in デジタル. Bookmark the permalink.