■利益の目的化と顧客の獲得:若手リーダーの話とドラッカー

     

1 営業担当になった若手リーダー

若手のリーダーが今年から新たに営業担当になりました。営業推進部というような名前の部門です。ここのリーダーですから抜擢なのでしょう。そこで営業の基本を叩きこまれたようです。しかし戸惑いました。話を聞いてみると、どうも様子が違います。

会社の上司たちから、1円でも多く利益を上げることが営業の目的だと繰り返し言われているとのことでした。まじめな人間ですから、営業方法も会社の色がついてきた感じです。お客さんがいくら得になります、あるいは負担が減りますという話ばかりでした。

そうやってきた先輩たちが、うまくいかなくて若返りさせた様子ですが、これでうまくいくのか、疑問を感じます。圧倒的に成功している営業担当の人達の様子とは、アプローチが違うのです。成功している人たちは、まずはお客さんの意向からスタートしています。

      

2 顧客満足度と顧客の利益

卓越した営業担当の人が、お客さんの要望を聞いて、それに合わせたサービスをすることが成功の秘訣だと語ると、あまりに陳腐すぎると言われるようです。しかし、お客さんの得になります、この方が負担が減ります…と言うよりも、こっちが王道でしょう。

お客さんの希望に合わせたものを作ることが私の仕事ですという人の方が、利益を強調した営業をする人よりも、成果が大きくなります。顧客満足度を顧客の利益で測かろうとすると、ズレが生じるはずです。満足というのは、金銭的なものだけではありません。

これができればよいなと思う人に、安定して希望をかなえられるようになれば、お客さんは満足するはずです。結果として金銭的な利益でも満足するかもしれません。しかし金銭・金額を満足度の尺度にしてしまうと、大きなものが抜け落ちることになります。

     

3 利益の目的化を戒めたドラッカー

卓越したリーダーならば、当然のように数字を把握しているはずです。数字が無意味ということはありえません。利益を上げなくては仕事が継続できませんから、基礎的な条件になります。検証項目として、収益が中核的な役割を果たすのは原則です。

しかし営業の目的にしたら、成功しません。何でこんな間違いを起こしたのかは、不思議な気がします。しばしば営業が上手くいかなくなると、損得に敏感になりがちです。数字は便利ですから、数字で結果を見るうちに、それが目的化したのかもしれません。

もしかしたら黙って頑張っていると、こうなってしまうのかもしれないと、思いました。いまでは上司や役員たちでも、ドラッカーを読む人は例外的な人でしょう。ドラッカーは、利益が目的化するのを戒めていました。顧客の獲得が目的であると主張したのです。

こうしたドラッカーの考えが、どうして生まれてきたのでしょうか。利益を目的化する人がたくさんいて、それらの人が結果として卓越したリーダーにならなかったのに気づいていたからかもしれません。優秀だったはずの若者の話を聞くうち、疲れてしまいました。