■日本語の基本要素と文構造・英語との比較:イノベーションのシンプルモデルを参考に

     

1 イノベーションのシンプルモデル

イノベーションに関するシュンペーターの理論について、『経済古典は役に立つ』で竹中平蔵は、とてもシンプルに表現しています。まず[シュムペーターは資本主義社会における経済発展の原動力は何かと問い、その答えを「イノベーション」に求めた]のです。

それではイノベーションというのは、どういうものでしょうか? [イノベーションを担う主体は誰か。それは企業者である。そして、企業者を支える重要な役割を担っているのが、銀行家である](p.147)。主体が「企業者」、それを支えるのが「銀行家」です。

それでは企業者は銀行家のサポートを受けて、何をするのでしょうか。竹中は書いています。[イノベーションとは、新結合を遂行すること]です。[「新結合」とは、生産要素を新しいやり方で結合すること]だということになります(p.150)。

      

2 基本要素と必須要素

私たちは、イノベーションについて詳しくわからなくても、ひとまずシンプルモデルでどんな概念であるか大まかな理解ができます。それができるのは、主体者が誰で、その主体者に加えてキーパーソンが必要であり、それらがどうするのかがわかるからです。

主体がわかり、それについての叙述がなされているからこそ、内容がわかるという構造になっています。ここで「いつ・どこで・どんな場合」というTPOの条件が加わることもあるでしょう。TPOは文の基本要素ではありますが、必須の要素ではありません。

日本語の典型的な文形式に、「いつ・どこで、誰が・何を・どうした」というものがあります。「いつ・どこで」のTPOは、必要な場合にのみ記述されるだけです。また日本語では、主体がわかっているときには、主体を記述しないのが原則になっています。

     

3 日本語の文構造と英語の文構造

日本語の文では「主体」と「文末の叙述」が対応関係になり、文末から主体を推定することが可能です。「主体+文末」だけで文構造にならない場合には、不足を補充してくれる言葉が求められます。イノベーションの事例でいえば「銀行家」が必要でした。

日本語の場合、主体(S)にサポートするキーワード(K)が加わって、それがどうしたと文末(B)で叙述する形式になります。【S+B】【[S+K]+B】【[S+K+K]+B】という形式です。ここに「いつ・どこで・どんな場合」(T)が加わる場合があります。

英語の場合、主語(S)が置かれ、述語(V)と、そのあとにキーワードにあたる目的語(O)・補語(C)が連なって述部を作ります。【S+[V+C]】【S+[V+O]】【S+[V+O+O]】【S+[V+O+C]】という風に、主語の独立が強い構造です。

日本語に英語風の主語がないのは、主体が強い独立性をもつ構造になっていないからです。一方で、文末には位置の固定性、機能の重要性があり、文の要になっています。英語の述語動詞よりも、日本語の文末には重要な役割が与えられているということです。