■ビジョンとはどんな概念か:金森久雄とシュンペーターの解説

       

1 ビジョンとツールの結合

私にとって、とても大切な本が金森久雄の『大経済学者に学べ』です。金森の主著だと私は思っています。「大経済学」とはどんなものでしょうか。金森は序章で、[「大経済学」とはビジョンとツールとが結合したものである]と定義しています。

これはシュンペーターの言葉です。ビジョンとは[社会状態の基本的な特徴についての洞察であり、ツールとはそのビジョンを具体的な理論に作り上げる用具である]と金森は解説しています。ポイントの適切な抽出とわかりやすい解説がこの本の魅力です。

じつはこの本そのものについて語ろうと思っているのではありません。ビジョンというものについて、考えてみたいのです。ありがたいことに、金森は大経済学者のビジョンがどんなものか、そのエッセンスはこれですよと、この本で示してくれています。

     

2 大経済学者のビジョン

アダム・スミス『諸国民の富』の場合、[労働が富の源泉であるという産業資本主義幕開けの宣言であり、大経済学者スミスが示したビジョン](p.4)であると言えるでしょう。金森は大経済学者のビジョンを極めてシンプルに提示してくれています。

それではマルクス『資本論』の場合は、どうでしょうか。[資本主義の本質が膨大な商品の集まりだ]との洞察が、[資本と労働との対立が激しくなった当時の社会経済の本質についてのマルクスのビジョン](p.4)だというのが金森の解説です。

ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』では、古典派の公準を2つあげ、第2の公準を否定して、[非自発的失業があることが、時の資本主義世界の最大問題であると喝破して、需要拡大による失業の解決に取り組んだ](p.5)ということになります。

    

3 洞察による確信を仮説にしたものがヴィジョン

金森はビジョンを語るときに、「洞察」とか「喝破」したと書いていました。日本では下村治が1950年代に[「日本は勃興期にある」というビジョンを抱いた。そして、このビジョンをもとに下村理論を展開し](p.5)とあります。理論化するのはツールです。

ビジョンは理論ではなくて、その前提になります。金森はシュンペーターの『経済分析の歴史 1』に基づいたようです。シュンペーターは[分析的努力に原材料を供給する分析以前の認知活動]を「ヴィジョン(Vision)」と名づける](p.79)と記しました。

ケインズの一般理論が[イギリスの一知識人の立場から把えられた・老境に入ったイギリスの資本主義の特徴]を基礎にしていて、[これらの特徴がそれに先立つ事実的研究によって確立されたもの]であり[ヴィジョンに外ならない]と書いています(pp..80-81)。

[ヴィジョンの諸要素が][多少なりとも秩序だった図式や構図の中にそれぞれ配置される]、[分析的努力は][ヴィジョンを抱くに至った時に初めて出発する](pp..81-82)のです。洞察による確信を仮説にしたものがヴィジョンだということになります。

*引用は『シュムペーター 経済分析の歴史1』1955年版によっています。

     

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