■ウェーバーの考察と現在:スイス入門『世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン』

      

1 ウェーバーの仕事の現代化

マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムと資本主義の精神』を読んだことがない人でも、この本の名前くらいなら知っている人がいるはずです。社会科学の分野の名著だと言われています。どんな本であるのか、梅棹忠夫の言葉で想像できるでしょう。

『梅棹忠夫著作集 第5巻 比較文明学研究』所収の「文明学と日本研究」(1984年)で言います。[社会科学としての文明学というのは][マックス・ウェーバーの仕事の現代化を目指]す仕事であると。ウェーバーの主著が『プロテスタンティズム…』でした。

川口マーン惠美は『世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン』でウェーバーの『プロテスタンティズムと資本主義の精神』に触れています。1905年の出版から百数十年たった現在のヨーロッパの状況が、ウェーバーの考察のままであると言うのです。

    

2 現代のヨーロッパの経済状況

川口は簡単に説明します。[カトリック教徒に零細な手工業者が多かったのに比べ、大きな工業主や銀行家は、軒並みプロテスタント教徒が占めていた][宗教と経済的な成功のあいだには関係があるのか?][ウェーバーはカルビン主義に突き当た]ったのです。

▼ヨーロッパで財政が破綻してしまっている南欧の国々は、ギリシャを除けば、当たリアもスペインもポルトガルも、みなカトリック組みだ(ギリシャはギリシャ正教)。それに比べて、オランダ、ドイツ、スウェーデンなど、プロテスタント色の強い国は財政規律がしっかりしている。 p.39

川口は続けます。[宗教がすっかり薄れた現在のヨーロッパでも、ウェーバーの発見した法則は、まだその威力を保っている](pp..39-40)のです。カルブァンはフランスからスイスに亡命し[1541年から二十年以上、ジュネーヴの街を支配](p.35)しました。

      

3 永世中立の危機

川口が言う通り[スイスはとりわけ裕福]です。ただし[チューリヒ市の真ん中には、世界に冠たるUBS銀行とクレディ・スイス銀行の本社がそびえたってい](p.40)ましたが、クレディ・スイス銀行はもはやありません。破綻しました。

スイスの銀行は必ずしも評判がよかったわけではありません。デジタル化が進展したこともあって、テロ資金がスイスの銀行に流入していたことが判明しました。以前から不明朗なところがあったのはご存じでしょう。もはや従来の秘密主義は貫けません。

ロイター通信は2022年5月17日の記事で、「スイスの代名詞となっている永世中立という外交政策が、過去数十年間で最大の試練に直面している」旨を伝えています。ロシアのウクライナ侵略に対抗した経済制裁に、スイスは加わるしかないからです。

スイスも変わろうとしています。おそらく苦労するでしょう。川口はおもにスイスをドイツと比較し、さらに日本と比べて論じました。2016年の本です。スイスのことをあまり知りませんでしたから、便利な本でした。その後の変化を見るのにも役立ちそうです。

     

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