■ドラッカーは何も証明していない:なぜ読まれるのか?

      

1 学者から全く評価されていないドラッカー

アメリカでは、ドラッカーはあまり読まれていません。こんなことは、あたりまえだという人もいるでしょう。ところがウソでしょうと言う人もいるのです。経営学者という範疇には入りませんから、経営学ではドラッカーに言及することはないでしょう。

野田稔が『実はおもしろい経営戦略の話』で、ドラッカーが[現代の経営学者たちからは、全く評価されていません]と書いているのは当然のことでした。[その理由を彼らは、「ドラッカーは何も証明していないから」と言います](以上、p.30)。

▼現代の経営学における証明とは、先にも述べた統計学的に有意であることを明確に示すことにあります。細かい命題ごとに統計学的な有意差があるかどうかの証明が大切にされているのです。 p.30 『実はおもしろい経営戦略の話』

      

2 実践の場で役に立つ経営哲学

それでは読む価値がないのでしょうか。日本では読まれています。読む価値があるからです。一方、アメリカでは読まれていませんから、読む価値が見いだせないのかもしれません。経営学における証明がなされているかを重視するかどうかなのです。

野田稔は言います。[ドラッカーの主張は現代の経営学者が定義する経営学ではないかもしれませんが、実践の場で役に立つ経営哲学であることは紛れもない事実です](p.30)。では、もっと具体的にどんな点を評価しているのでしょうか。

[企業の社会的役割を「顧客の創造」と定義]した点が[ドラッカーの数ある経営思想でもっとも有名で、なおかつ重要な部分](p.31)と評価しています。これが欲しいと感じさせる新しい価値を提供して、顧客を生み出すことが顧客の創造です。

      

3 証明の前提条件

ドラッカーは晩年になって、「顧客の創造」という概念を、企業の社会的役割あるいは目的に限定することを放棄しています。非営利組織でも、そこで提供されるものが必要だという人が存在しなくてはいけなくて、その人たちも顧客だと言うようになりました。

したがって、営利組織の目的だけでなく、非営利組織の目的として「顧客の創造」が位置づけられたのです。組織の目的あるいは社会的役割となりました。『経営者に贈る5つの質問』が、『非営利組織の成果重視マネジメント』をもとにしているのは象徴的です。

営利も非営利も、組織の経営の基本に顧客の創造があります。この点、統計学的に有意だと証明する必要はないのです。もっと根本的な概念というべきでしょう。ドラッカーは古くならないのです。統計的に有意だという証明は時代が変われば無効になります。

ドラッカーは経営哲学者でした。直接的、具体的な提言を引き出そうとするのは馬鹿げています。すぐれた経営書である『イノベーションのジレンマ』と『イノベーションと企業家精神』のどちらを繰り返し読むでしょうか。後者だという人が多くいるはずです。

     

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