■業務の構築と新しい料理の創造:頭の中でのシミュレーション

      

1 料理のレシピと業務マニュアル

業務マニュアルのサンプルとして、料理のレシピを使って説明することがあります。料理のレシピは、料理の手順を記したものです。準備をするために必要な材料一覧もありますし、料理を作ることを業務と扱ってもおかしなことにはなりません。

料理が好きな人ならば、料理レシピを見れば、どの程度の料理になるか、ある程度予測がつくはずです。プロになるとレシピを見れば、それを作った人のレベルがわかるということでした。料理というのは実践して初めてわかるというものではないようです。

これは普通の人では無理なことでしょう。しかしプロの場合、頭の中に基本的な食材の味が思い浮かんで、組み合わせのシミュレーションができてしまうようです。ときどき画家が、あちこちに置かれたモチーフを絵の中で組み合わせてしまうのと似ています。

       

2 料理しなくても結果がわかるプロ

『池波正太郎の食卓』で和食の近藤文夫は、天ぷらの「ズッキーニの生湯葉射込み」について、ズッキーニなどの[瓜というやつは相手が難しいんだ。ああでもない、こうでもないと相手を考え続けて、生湯葉にたどり着くまでに三年かかったよ]と語っていました。

実際に揚げてみたわけではないのです。[考え出すまでに三年かかったというが、実際に揚げたのはこの日が初めてというから驚く。寝ても覚めても頭の中で考え続け、何十何百という組み合わせを一つ一つ消去していったそうである]と佐藤隆介は書いています。

これは本物のプロのケースです。佐藤は近藤に尋ねます。「考えただけで、実際に揚げてみるまでもなく、結果がわかるの?」。近藤の答えは「そりゃ、わかりますよ」でした。たぶん他の分野でも、プロかどうかの判定基準になります。

      

3 業務構築の目標

業務の構築や改善、改革の場合、業務の記述からスタートしなくてはいけません。それをもとにして、あれこれ考えて、その一番確実に成果をあげるシンプルなカギを見つけることが重要になります。それを繰り返すことが一番効果的です。

業務構築のプロになったならば、検証しなくても、かなりの確率で成果をあげる仕組みを見出すことが可能になるのでしょう。料理ほど確実ではないはずですが、何度も業務の構築や改革を行っていると、これはうまくいくというのが見えてくるはずです。

料理のプロである近藤文夫も実際に何度も料理をすることによって、頭の中でシミュレーションできるようになったのでしょう。業務はもう少し複雑なものですが、目指すべき方向、目標は同じです。そのためにも業務の仕組みを繰り返し考える必要があります。