■リーダーの資質・組織の資質

1 不明確な「ポスト」

企業の仕事がプロフェッショナル中心で進んでいくことは、もはや当然のことになってきました。このことが、個人の資質と組織の資質を問題にする要因になっています。中核となるリーダーの役割と仕事をする組織の体制が問われるということです。

リーダーはプロ中のプロとして、組織の知識労働者とも呼ばれるプロフェッショナルたちの意思を統一して、やるべきことにエネルギーを集中させる役割があります。このとき、よりどころとなるのがミッションやビジョンです。これらの共有が重要になります。

私たちは、明確できちんとした考えを必要としています。リーダーに対して要求するだけでなく、自分でもそうありたいと思うはずです。「モダン」の時代ならば、定量化することが明確できちんとわかる概念でしたが、もはやそれだけでは不十分になりました。

ドラッカーは定量化だけではビジネスが上手くいかないことを、1957年の「未知なるものをいかにして体系化するか」(『テクノロジストの条件』)で指摘しています。モダンの時代の方法では不十分な時代をポストモダンの時代と規定したのです。

ただし「ポスト」という用語は、対象そのものを説明できないときに使う用語だろうと思います。あまり好ましい用語ではありません。「ポスト印象派」が「後期印象派」と誤訳されて一部で定着されたように、ポストをつけた概念には不明確さがあります。

 

2 明確なイメージが持てない時代

概念を定量化しないで、きちんと明確に説明する方法は、どんなものがあるのでしょうか。おそらく多くの場合、イメージを示すことになるでしょう。何らかの企画を考えるときに、イメージのすり合わせということを、私たちは自然に行っています。

『反古典の政治経済学』の村上泰亮(ムラカミ・ヤススケ)は、[イメージをできるだけ広く筋の通ったものにする努力、それが思想である](上・p.4:1992年)と記しています。上下二巻のずいぶん固い感じの本ですが、この説明が一番よく伝わってくるように思いました。

村上は言います。[人間は誰しも自分の直面する世界について、或るイメージを作って生きている]、これが「思想」です。ところが[人々が基準を持てなくなった時代、思想を持てなくなった時代、それがこの二十世紀末である]ということになります。

▼(十九世紀末には)まだ合理的進歩の思想が残り、一元的科学への進行が生きていた。ヨーロッパ世界はむしろその絶頂にあるようにも見えた。しかしこの二十世紀末には、合理的進歩への懐疑が忍びより、科学技術への信仰が揺らぎ、近代の源泉であったデカルト主義の解体が進行している。 p.3:上

村上は合理的進歩の思想のあと、[それに代わるものが見当たらないままに、人々は次の時代に突入しようとしている](p.4)と記しています。やはりポストをつけた時代がやってきたのです。明確なイメージが持てない時代がやってきたということになります。

 

3 リーダーの資質

ドラッカーがポストモダンの概念を提示した1957年から35年後の1992年、村上もポストモダンの時代が来たことを指摘しました。ドラッカーは1989年論文「会社はNPOに学ぶ」あたりから、ポストモダンのマネジメントを新たに基礎づけていったように見えます。

もう一度基本から考える必要があるようです。実際の成果、目標達成の状況を見れば、個人の資質と組織の資質の組合せがますます重要になっています。仕事の目的であるミッション、目標達成のための構想である戦略・ビジョンの再確認が必要かもしれません。

村上は[イメージをできるだけ広く筋の通ったものにする努力]をするときに、インテグリティ(integrity)が不可欠になると言います。integrity とは「全体としての一貫性」という概念だと村上は記しています。ドラッカーも重視した概念でした。

▼インテグリティの不足を感じとり、一貫した道筋を追求するのが人間の最も基本的な本性である。(中略)人間の一生は、変化し拡大する環境に対応して筋道を取り戻そうとする努力の繰り返しだといってもよい。 p.4:『反古典の政治経済学』上

ここでいう「integrity」はドラッカーが求めたものより広い概念でしょう。リーダーになるためには[他から得ることができず、どうしても自ら身につけていなければならない資質がある。それは、才能ではなく真摯さである](p.251『現代の経営』下・選書版)。

ドラッカーの場合、単に一貫した筋道というだけでなくて、卓越性を求める信念を含んだ概念であるいえます。[経営管理者を経営管理者たらしめるものが、彼自身のビジョンと責任である](p.253『現代の経営』下・選書版)。ここにミッションが加わります。

リーダーに求められるのは、卓越性を求める一貫した信念であり、そのイメージを組織が共有できるように努力することといえます。逆から言えば、明確にイメージできるミッションを生み出せる人が、リーダーの資質があるだということになるでしょう。

 

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