■戦略的思考:マネジメントを変えさせたもの その3


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7 リーダーシップの主体

ドラッカーの場合、組織がどうあるべきかをおもに問うていた立場から、個人の役割の大きさを考慮にいれる立場に変わったように思われます。組織における個人の役割の大きさが変化してきたことの反映とみるべきでしょう。現実が変わったということです。

たとえば1964年刊行の『創造する経営者』に、[リーダーシップは、事業戦略においてとくに重要である](p.8:名著集:2007年訳)とあります。ここでの主体は個人としてのリーダーのことではありません。市場における企業のリーダーシップです。

あるいは[リーダーシップという言葉は定量的な概念ではない](p.45)という記述があります。ここでの主体は製品です。[ある製品がリーダーシップをもつということは、市場や顧客のニーズに最も適合しているということである](p.48)とあります。

製品のリーダーシップが「定量的な概念ではない]というのは、[市場シェアによってリーダーシップを判断するという通常の方法は間違いである](p.48)ということです。当時、企業や製品のトップシェアがリーダーシップという考えがあったようです。

『創造する経営者』が書かれた時期には、個人の役割が現在ほど大きく認められていなかったということでしょう。同時に[正しい組織が成果を約束してくれるわけではない](p.289)と記されていますから、組織の力に対する限界を前提にしていました。

 

8 「事業の定義」の周知徹底

個人の資質と組織の資質との関係について、ドラッカーの「ビジネスの理論(The Theory of the Business:1994年)」が参考になるように思います。この論文はいくつかの翻訳がありますが、以下のものは『未来への決断』にある「事業の定義」の訳文です。

ビジネス理論の基礎には、事業を定義する3つの前提があります。(1)「組織をとりまく環境についての前提」、(2)「組織の使命についての前提」、(3)「組織の使命を達成するために必要な中核的な卓越性についての前提」(p.34)です。

ビジネス環境を分析するのは、おもにマーケティングの領域でのことになるでしょう。これに加えて、仕事の目的である使命・ミッションを設定する必要があり、さらに使命を達成するための構想・ビジョンあるいは戦略が必要だということになります。

マーケティング、ミッション、ビジョンを決定するのは、プロ中のプロであるリーダー層であるべきです。多数決では決まりません。そして決定された[事業の定義は組織全体に周知徹底させなければならない](p.36)のです。当然のことのようですが、違います。

▼組織が成功するにつれ、皆が事業定義をあたりまえのこととし、特別の意識をもたなくなっていく。やがて、組織はずさんになっていく。何ごとも手軽にすまそうとする。正しいことよりも都合のよいことを追いかける。考えなくなる。疑問を発しなくなる。答えは覚えていても、問題が何であったかを忘れる。事業定義が慣習となってしまう。しかし、慣習が規律に変わることはできない。事業定義は規律でなければならない。 p.36

卓越したリーダーたちが、マーケティング、ミッション、ビジョンを設定したとしても、個人個人が自分のこととして考える組織の資質がなくては、成果が上がりません。当然のこととして、[事業定義は常に検証していかなければならない](p.37)のです。

 

9 成果による裏づけ

自社のマーケティング、ミッション、ビジョンについて、わがことのように考えていくならば、そこに新たな構想が生まれてくるはずです。個人の資質と組織の資質が両輪となるためには、高い要求水準に見合う責任と権限を与えることが必要になるでしょう。

それが必要になってきたのはなぜでしょうか。言うまでもなく、成果が期待できるからです。『創造する経営者』にある通り、[ビジョンの有効性の基準は事業としての成果であり、事業としての繁栄である](p.253)ということに変わりはありません。

ビジョン・構想といった戦略的思考は評価基準によって、よいものであったのか、そうでなかったのかが判断されます。それは目標との比較によって判断されることになります。目標の条件は、客観的な基準であること、達成・未達成が明確であることです。

こうした基準から判断すれば、市場でリーダーとなる組織に、どういう条件が必要かが明らかになります。そのとき卓越したプロフェッショナルの資質に期待することの重要性が裏づけられ、さらに、それを受け容れる組織の資質が問題になるのです。

▼人材は、少数の大きな機会に集中しなければならない。特に、成果を上げる知識を持つ高度の人材についてこのことが言える。そして何よりも、このことは、あらゆる人材のうち最も希少で最も効果であるばかりでなく、最も大きな成果をあげうる人材、すなわち経営者についていえる。 p.14:『創造する経営者』名著集

組織を構成する個人のプロフェッショナル化が進んだ結果、個人の役割が大きくなりました。プロフェッショナルをやる気にさせることが出来るのは、プロからも敬意を持たれるリーダーだということです。これが客観的な基準でも裏つけらたということでしょう。

 

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