■ドラッカーのポストモダン概念:「全体と部分」および目的について

1 新しい世界観

近代を生んだモダンの世界から、ポストモダンの世界に推移していくときに、全体と部分の関係が大きく変わると、ドラッカーは早くも1957年に「未知なるものをいかに体系化するか」(『テクノロジストの条件』所収)で書いていました。

しかし、その時点でドラッカーもまだ答えを得ていなかったと記しています。[新しい世界観が常識となりつつあるにもかかわらず、その内容を理解しきってはいない](p.9)というのです。にもかかわらず、ポストモダンの大きな枠組みを提示しています。

全体と部分の関係、目的についての再検討が必要になるのです。部分があってこそ、全体があるという発想から、全体があるからこそ、部分が決まるという発想への転換がなされるでしょう。目的が重視されるとともに、従来とは違う目的が登場します。

▼ここにいう目的とは、中世やルネッサンス期のそれとは異なる。かつての目的は、物質的世界、社会的世界、心理的世界、哲学的世界の外部にある絶対的存在だった。これに対しポストモダンにおける目的は形態そのものに内在する。それは形而上のものではなく形而下のものである。宇宙の目的ではなく宇宙のなかの目的である。 p.8

『テクノロジストの条件』は2005年に出版されました。その巻頭に置かれているのが、「未知なるものをいかに体系化するか」です。上田惇生がドラッカーと相談の上、この本を組んでいますから、ドラッカーも異議なしだったのでしょう。

 

2 「顧客の創造」とは別の「目的」

ときに変化の一番初めに書かれた一筆書きが、大枠で一番正しかったということがあります。この時期に、よくぞここまでという内容が示されている場合、何かに焦点がピタッと合ったと見るべきでしょう。現実を見るときの基本構造が示されているはずです。

ビジネスの世界で、(1)全体が部分を規定するということ、(2)目的について、ビジネス全体の目的とともに、個々のビジネスごとに目的が求められるという洞察でした。こうした視点は、1954年に書かれた『現代の経営』では、少し違っていたといえます。

▼事業の目的として有効な定義はただひとつである。それは、顧客を創造することである。市場は、神や自然や経済的な力によって創造されるのではない。企業人によって創造される。 (p.48:ドラッカー選書版『現代の経営』)

『現代の経営』において、ドラッカーがビジネス(事業)の目的を「顧客の創造」としたのは画期的なことでした。これによって「宇宙の目的」を明確にしたといえるでしょう。しかし、その3年後になって「宇宙のなかの目的」が必要であると記したのです。

この時点で「宇宙のなかの目的」は明確ではありませんでした。[今のところ、新しい体系、方法論、公理を手にしたわけではない](p.9:『テクノロジストの条件』)のです。ただし、それは60年以上前の時点でのお話でした。もはや時代が変わっています。

 

3 「大きな目標」と「小さな目標」

再びエディー・ジョーンズの『ハードワーク』を見ることにしましょう。この本がいかにきっちり体系づけられているか、リーダーの練習をした人ならわかるはずです。この人のリーダーとしての実践内容を確認してみると、お見事と言える方法をとっています。

全体と部分の関係について、全体あってこその部分であるとドラッカーは言いました。ジョーンズはそれを当たり前のように実践しています。全体を掲げてこれを指標にして、そのときの状況に合わせて、部分に分割していきます。部分が変動するのです。

▼目標には、2種類あります。大きな目標と小さな目標です。これは性質ではなく、規模の異なるものです。
小さな目標は、大きな目標に従属します。大きな目標を叶えるために、小さな目標を一つ一つ達成していくと考えればいいでしょう。 p.22『ハードワーク』2016年版

上記のようにジョーンズは目標を二つに分けていますが、断りがない場合、「目標」と書かれていたら「大きな目標」のことです。「小さな目標」の場合、カレンダーに基づく管理であるという観点から、「スケジュール」という言い方をしています。

ジョーンズの場合、[3年という長い期間を見据えたうえでの大きな目標]に対して、小さな目標は[2カ月ごとに考えるべき]だとしています。なぜなら[2カ月という期間は、物事をチェックするのに、とても適している]からです。

大目標を変えずに、小目標を変える点について、[私は、目標は絶対に変えてはならず、一方、スケジュールはできる限り臨機応変にするべきと言いました]と語っています。小さな目標を臨機応変に変えながら、大きな目標の達成のために実践していくのです。

ジョーンズの例は全体が部分を決める関係を明確に示してくれます。これはラグビーに限ったことではありません。ドラッカーは『マネジメント・上』(p.128)で、目標とは[ミッションを実現するための決意であり、成果を評価するための基準である]と記します。

「ミッション⇒目標⇒アクションプラン」という上位から下位への、全体から部分への階層構造を示しています。ジョーンズのいう「小さな目標」あるいは「スケジュール」というのは「アクションプラン」というべき概念に相当するというべきでしょう。

『マネジメント・上』第7章は「目的とミッション」という章題です。ここでドラッカーは、「目的」を使い分けているのです。「宇宙の目的」は「目的(顧客の創造)」であり、「宇宙のなかの目的」が「ミッション」ということになります。

 

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