■ドラッカーのポストモダン概念:「全体と部分」および目的について:その2


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4 「一つの目的」=「一つの使命」

1992年に出た「組織社会の到来」というドラッカーの論文は後期を代表する論文の一つかもしれません。そこで[組織の「文化」は、コミュニティを超越しなければならない]と記しました。組織とコミュニティは、かなり性格の違う存在です。

両者の違いについて、[社会やコミュニティは多次元である。それらはいわば環境である。これに対して、組織は道具である]と説明しています。道具である組織は、多次元ではありえないということになるのです。「目的」が問題になります。

▼組織は一つの目的に集中してはじめて大きな成果をあげる。目的の多様化は、企業、労組、学校、病院、コミュニティのサービス機関、教会のいずれかを問わず、成果をあげるための能力を破壊する。 p.100:『未来への決断』

なぜなら、[組織は一つの使命しか持ってはならない。さもなければ、組織は混乱する]からだとドラッカーは言います。ここで「一つの目的」=「一つの使命」という形で言い換えられている点に注意すべきでしょう。ここでの目的は「宇宙のなかの目的」です。

▼明確かつ焦点のはっきりした共通の使命だけが組織を一体化し、成果をあげさせる。明確な使命がなければ、組織は直ちに組織としての価値と信頼性を失う。その結果、成果をあげるうえで必要な人材が手に入らなくなる。 p.100

もはや利益だけをよりどころにしていては、[組織としての価値と信頼性]を勝ち取ることはできません。利益という客観基準は、組織の目的にはなりえないということです。価値と信頼がなければ、[必要な人材]を集めることもできなくなります。

 

5 「会社はNPOに学ぶ」1989年

モダンの世界であるなら、企業にとって圧倒的に大切なことは利益だったはずです。ドラッカーは利益について、事業を継続するための条件であると位置づけました。人を集めるには、利益誘導だけではどうにもならなくなってきたのです。

ポストモダンの時代のドラッカーのマネジメント体系は、1973-74年に出された『マネジメント』の時点ではまだ完成していなかったように感じます。人間の信念とか信頼感といったものは、そのあとから体系づけられたものだったようです。

そのことは、1989年に書かれた「会社はNPOに学ぶ」という論文にあります。これは大切な論文ですし、1990年の『非営利組織の経営』とともに読むべきものでしょう。まさに日本とアメリカの経済格差が開きはじめた頃の論文です。仕事の質が問われます。

▼この変化は、会社に対しても、明快な教訓をもたらす。なぜならば、知識労働者の生産性を向上させることが、アメリカのマネジメントにとって、今日最大の課題だからである。
NPOが、それをどのように行うべきかを教えてくれる。それは、使命を明らかにし、人材を的確に配置し、継続して教え、学ばせ、目標と自己管理によるマネジメントを行い、要求水準を高くし、責任をそれに見合うものとし、自らの仕事ぶりと成果に責任を持たせることである。 p.104:『P.F.ドラッカー経営論集』

多くの組織人がボランティアとして働いていて、そこでの[仕事の性質の変化には、アメリカの会社への明確な警告が込められている]と指摘します。なぜボランティアをするのか、そのことをドラッカーが聞いているのです。日本でも同じでしょう。

▼その理由を聞くとほとんど例外なく、「会社の仕事はやりがいが十分でなく、成果や責任も十分でない。使命も見えない。あるのは利益の追求だけだからだ」との答えが返ってくる。 p.104

 

6 新しく生まれる構造的に強い会社

ポストモダンの世界では、リーダーが信念に基づいた使命(ミッション:「宇宙のなかの目的」)を掲げ、それに賛同する人が集まるという建前が出来てきたのです。これは非営利組織の活動が盛んになるにつれて明らかになってきたことだろうと思います。

ドラッカーは「会社はNPOに学ぶ」を書いた1989年の末に、船橋洋一と対談しています(『世界が劇場となった』所収)。ここで船橋は「アメリカの衰退」を持ち出しているのです。そのときドラッカーはそれを全く相手にせずに答えています。

[だれもが衰退していると言うけれども、これは幻影だと思います。私はアメリカは衰退していないと思います]と明確に否定するのです。[製造業を見ると、50年代よりいい状態にあります]と、今後、飛躍の時代が来ることを指摘しています。

▼世界の中では、いわゆるグローバル経済と、ナショナリスティックな政策の緊張が強まって、大きな会社はその間に挟まれて動きが取りにくくなっています。これに比べて中規模のものは違います。その面では、アメリカのほうが日本より構造的にずっと強くなっていると思います。

新しい会社が生まれてきていることを指摘しています。[現在はだれが楽譜を書くかが問題なのです。それがビジョン、勇気、リーダーシップです]。ドラッカーは遅くとも1989年の時点で、ホストモダンのマネジメント体系が見えていたというだろうと思います。

*なお文中で触れた1992年の論文「組織社会の到来」は、『P.F.ドラッカー経営論集』にも「多元化する社会」という題名で所収されています。『未来への決断』の訳文が好ましく感じるため、こちらから引用しました。

 

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