■「ビジョン」とはどういうものか:セコム創業者飯田亮の考え方

      

1 「経営理念」と「ビジョン」

ビジョンという言葉がビジネスでは使われます。必ずしも明確な定義がなされていません。一般的な用語として使われています。「洞察力」とか「将来の構想」といった意味で使われているのでしょう。標準的な定義がなくとも、そこで語られることが重要です。

『プロの勉強法』に、セコムの創業者である飯田亮(イイダ・マコト)の「ビジョン構築」という文章があります。2004年9月13日号の「プレジデント」に載った記事です。すでに20年前のものですが、ビジョンを正面から扱ったものとして、大切にしています。

飯田もビジョンという用語を明確に定義しているわけではありません。しかし語られるところから、どういう意味の言葉として使っているのかが見えてきます。ここで「経営理念」と「ビジョン」を使い分けている点が大切です。両者が違うことを前提とします。

     

2 ビジョンは変更すべきもの

[経営理念は時代が変わっても変えてはいけないもの]です。一方、ビジョンは[時代や環境の変化に応じて変えていくべき]ものということになります(p.28)。ビジョンの変更は[ビジネス手法を破壊すること][創造的破壊]に該当するものです。

▼これからは経営者がどういうフィロソフィー(哲学)とビジネスデザインを持っているか。どういう考え方で経営をしているのか。そうした長期的な視野に立った見方が、より重要視されるようになる。 p.31

経営理念は「フィロソフィー(哲学)」にかかわり、ビジョンは「ビジネスデザイン」にかかわるものです。飯田は「ビジョンと信念」とも言っています(p.30)。不変の「経営理念、哲学、信念」、可変の「ビジョン、ビジネスデザイン」の2系統が必要です。

     

3 「安全安心を提供するための価値あるサービス」

飯田の言う「ビジネスデザイン」とは、「ビジネスモデル」にあたります。[私はヨーロッパに警備ビジネスがあると聞いて、セコムの創業を思い立った][セキュリティというそれまでの日本になかったビジネスを][デザインしていった](p.25)のでした。

[安全・安心を提供するという本道の部分で本当に価値あるサービスを行うこと]が重要であり、このビジネスを成り立たせるためには「三カ月分の料金前払い制を貫いている」(p.26)のです。前者がビジョン、後者がビジネスデザインに該当するものになります。

同じように、セキュリティ機器をレンタルにしたのも、[セコムのビジネスは顧客に安全・安心を提供すること]だから[自社で責任を持って管理・メンテナンスしたほうが、きちんとしたセキュリティサービスを提供できる]という理由からでした(p.27)。

主力事業だった巡回警備を、機械警備へと切り替えたのは、[これからは機械警備だというビジョンがあったから、創造的破壊の決断が出来たのである](p.29)。「安全安心を提供するための価値あるサービス」を継続するには、機械警備が不可欠になったのです。