■思考と執筆:『エマニュエル・トッドの思考地図』から

      

1 思考とは本能的な欲動

思考というのは、どういうものであるのか、明確に語ることは難しいことです。『エマニュエル・トッドの思考地図』で、トッドは[思考そのものはとっさの行為、自然発生的な行為です](p.30)と語っています。定義したのではなく、その現象を語っただけです。

▼私にとって「思考する」とはプラトンが考えていたようなことではありません。そもそも、私は哲学者などではありませんし、正直に言ってしまうと「思考とは何か」という問いほど、私にとって厄介なものはないのです。 p.23

しかし思考とは[本能的な欲動だと感じてきました](p.24)から、思考すべしなどという考えは出てきません。[だから思考とは何かということについて思い悩むこともありませんでした]。ただ本を読み、混沌から法則を見出すことに関心を持っただけだでした。

     

2 考えるのではなく学ぶ

トッドは[考えるのではなく、学ぶのです。最初に学ぶ。そして読む]のです。[何かを学んだとき、知らないことを知った時の感動こそが思考するということ]になります(p.27)。だからトッドの場合、[仕事の95%は読書です(残りの5%は執筆です)](p.45)。

読書の際に[よく直接本に書き込みます。こうするとなくしてしまう心配もないですから](p.49)。こうして[本を読み続け、さまざまな情報を収集し、自分の頭のなかにデータを蓄積していくと、ある時点で自分の脳がデータバンクのように](p.43)なります。

これが思考できる段階、つまり[データをまとめたり、そこから仮説を立てたり、解釈のために図式化したりする作業](p.44)の段階です。これができたら[仮のモデルの有効性を確認]し[知識が欠けている部分を埋める作業](p.67)をする検証の段階になります。

     

3 トッドの書き方

トッドの書き方はやや独特です。[書くという行為は私にとっては頭のなかでしっかりと構築されたモデルを放出するという作業です]。したがって[私は頭のなかで物事がしっかりと明白になってからでないと書き始めません](p.179)ということになります。

かつては[執筆をしながら思考を形にしていっていた時期もありました]。『新ヨーロッパ大全』の執筆では、[アイディアの形式化と執筆工程とがほぼ同時進行でした]が、[一章分を書き終えてから、それを丸ごと捨てた]とのことです(p.178)。

▼すべては私の頭のなかで完成します。というのもモデル自体はたいてい非常にシンプルな要素から成り立っているものだからです。構想をメモやカードでまとめたりすることもしません。私の書き方は、それこそ高校で教わるようなオーソドックスな組み立てそのものですから。 pp..179-180

スタンダードな章立てのため[始める前にすでに構成も頭のなかに](p.181)あるのです。私は、こういう書き方をしていません。中核部分を記述して、それを検証するプロトタイプ・アプローチをとります。トッドの記述法も検討すべきかもしれません。

      

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