■堺屋太一の遺作『三度目の日本』:「楽しい日本」をどう作るのか

     

1 堺屋太一の遺作

堺屋太一が亡くなったのは、2019年2月8日でした。最後に書いた本が『三度目の日本』だったそうです。堺屋太一の本は、それなりに読んだはずですが、なぜか、読まずにいました。興味がなかったわけではないのに、どうしたのでしょうか。やっと手に取りました。

三度目の日本というのは、1868年の幕末、1945年の敗戦、2019年の平成という節目があるという考えによります。幕末から明治になって「強い日本」を目指し、敗戦後は「豊かな日本」を目指した。平成が終わって、これから新しい日本がはじまるということです。

1868年も1945年も「敗戦」だったと堺屋は言います。今回が三度目の敗戦だということです。ただし2019年という年をピンポイントで示しているのではありません。[2017年から2026年までの10年の間に「二度目の日本」が終わると考えている]のです(p.5)。

     

2 戦後の価値観が通用しない時代

堺屋は2018年の12月にこの本を書いています。したがって、新型コロナが世界的に広がったことを知りません。[東京オリンピックが開催される2020年に、決定的になるだろう]と書いていました。新型コロナによって決定的になった気がします。

では堺屋は、「強い日本」から「豊かな日本」になり、今度は、どういう方向になると言っているのでしょうか。[私は「三度目の日本」を、「楽しい日本」にしようと提言する](p.6)と書いています。これが堺屋の三度目日本のコンセプトだということです。

▼1945年の敗戦以降、戦後の価値観として、倫理があり美意識があり、経済の仕組みがあり、社会の成り立ちがあった。しかし現在、それらは明らかに通用しなくなっている。戦後の価値観によって成り立っていた時代が終わろうとしているのだ。 p.5

     

3 テーマではなくコンセプト

堺屋は言います。[「二度目の日本」は、1989年(平成元年)ごろから、明らかに行き詰まりを見せてきた。それは高度経済成長の行き詰まりであると同時に、規格大量生産が行き詰まった、ということ]です(p.14)。これだけで転換期のイメージがわかるでしょう。

1970年の日本万国博の際、委員会が[「人類の進歩と調和」というテーマをひねり出した]のですが、1966年にカナダのモントリオール博覧会の準備状況を視察に行ったとき、「肝心なのはテーマではなく、コンセプトだ」と現地の関係者から言われたそうです。

モントリオール博は[東西4000キロもあるのに、南北は100キロしか人は住んでない]長大なカナダという国の統一をコンセプトにしていたとのこと。それで日本の場合、「規格大量生産の工業社会なる日本」を見せるということに落着したとのことです。

[自動車を普及させろ、カラーテレビを量産しろ、そしてクーラーを各家庭につけられるようにしろ](p.17)ということになります。次の「楽しい日本」はどうなるのでしょうか。それをどう作るのか、堺屋はヒントを残していきました。読む価値のある本です。

      

三度目の日本 幕末、敗戦、平成を越えて (祥伝社新書)

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