■イノベーションについて:その3
7 目的・コンセプト・ストーリー
イノベーションとは、いままでにない斬新なものが広く受け入れられることであり、基礎にはアイデアが必要となるものです。アイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」だと言ってよいでしょう。問題は「新しい組み合わせ」の方にあります。
ドラッカーは「未知なるものをいかにして体系化するか」(『テクノロジストの条件』所収:1957年『変貌する産業社会』)で、[未知なるものの体系化に基づくイノベーション]を提唱していました。キーワードは「コンセプト・秩序・形態・知覚」などです。
目的からコンセプトが生まれ、秩序がつくられます。[ポストモダンにおける秩序とは、全体の目的に沿った配置]です。コンセプトが[成長、発展、リズム、生成]を内包する(p.8:『テクノロジストの条件』)ため、ストーリーで語るのがふさわしいでしょう。
8 「分析する前に知覚すること」
以上が、目的・コンセプト・ストーリーの流れに沿ったマネジメントの基本思考です。ドラッカーはここで、「新しい組み合わせ」を得るためには[分析する前に知覚すること]が必要であり、[その知覚がイノベーションの基盤になる](p.16)と考えました。
体系化には「知覚」が鍵になるのです。『テクノロジストの条件』13章「分析から知覚へ」(1989年『新しい現実』)でも、[デカルト以来、重点は分析的論理におかれてきた。これからは、分析的論理と知覚的認識の双方が不可欠となる](p.236)と記しています。
知覚的認識が求められるのは上記のように秩序であり、[秩序は形態](p.16)だと1957年のドラッカーは記しました。1989年にも[今日われわれの直面する現実は、すべて形態である](p.236)と書いています。問題は「知覚」とは何かということになりそうです。
9 「知覚」の概念
ドラッカーは「知覚」をどう定義していたのでしょうか。明確な定義を示していないようです。ただ特別な概念として使っているとは思えません。この点、前田秀樹が『絵画の二十世紀』で示した、ベルグソンから抽出した「知覚」の定義が妥当だろうと思います。
[知覚するとは、身体が行動に必要なもの、行動にとって可能なものを世界から引き出してくることである]というものです。[人間が見るコップも、カブトムシの足が知覚するツルツルした隆起も]共通の物質ですが、それを引き出す身体が異なるのです(p.38)。
引き出してきたものは世界の全体ではなくて「部分」にすぎません。つまり[身体の外に在って、身体がそれに働きかけうる範囲や条件を、身体に対して表している](p.38)、それが[自己を行動へと凝縮させ、さまざまに組織づける](p.40)のです。
感覚ならば[身体のなかに在]って[身体のすみずみを揺るがす]でしょう(p.39)。ドラッカーはかつて「傍観者」という言葉を使いました。自己の外の世界から行動すべき範囲や条件を見出すことが「新しい組み合わせ」=「イノベーションの基盤」になるのです。