■基本となる「ビジョン・戦略」の特徴:定性的な発想と定量的な発想

       

1 シュンペーターのビジョンの概念

シュンペーターは、ビジョン(Vision)を[分析的努力に原材料を供給する分析以前の認知活動](p.79『経済分析の歴史 1』1955年版)と言います。ややわかりにくいでしょうか。(1)分析に先立つという点、(2)それが認知活動であるという点がポイントです。

分析をするためには素材・材料が必要なのに、それが不十分な時点で「これだ!」と考えることです。認知活動ですから、状況や問題点を把握することであり、知覚することになります。すべてがわかっていなくても見通しを立てて、本質を見抜くことです。

ビジョンというのは、洞察に近い概念だと言えます。分析するまでの素材がまだ整備されていないときのものですから、[分析的努力は][ヴィジョンを抱くに至った時に初めて出発する](p.82)のです。モノの把握はまず定性的に行われるということになります。

       

2 洞察力が不可欠な理由

定性的であるのは、データがそろっていなくて、裏づけの取れない状態だからです。新しいことを始めるときには、最初からデータがそろっていません。あれこれ整備されていないのです。そのため調査という概念が成立しません。定量的な分析は不可能です。

人間の強みは、すべてのデータがそろわなくても、洞察によって、かなり正確な見通しが立てられるという点にあります。成功までのルートが明確でなくても、まずはこうやって、次にこうやって…という粗い道筋があれば修正しながら進んでいけるのです。

定量的に言えという要求は、ある程度、整備された環境でこそ意味のあるものであると言えるでしょう。新しいことを始めようとする場合、カンを働かせて、「これだ!」という道筋を見通して、その姿を示さなくてはなりません。洞察力が必要になります。

    

3 定性的に考えるべき基本項目

洞察に頼って見通す場合、必ず見落としが出てくるでしょう。思いもよらないことがでてくるのを覚悟しておかなくてはなりません。他のものから類推して確率が高いとか、経験則から言って正しいという、ある意味で頼りにならない根拠に基づきます。

それでも見通しを立てて考えておくことは役に立つでしょう。検証ができるからです。検証可能なものであれば修正して行けます。新しいことをする場合に限らず、ビジネスには正解のない領域が大きく残っていますから、検証によって確認することが不可欠です。

ビジネスには戦略が必要だと言われます。では戦略とは定量化できるものでしょうか。もし定量化できるものならば、それは戦術になります。戦略の失敗は、戦術によって取り返しがつきません。戦略の方が基礎になっています。それはストーリーで表すものです。

定量化と定性化の違いを、単に数字などで客観的に表せるかどうかで考えても、あまり意味がありません。定量化できるものを定性的に示すのは困ったことですが、しかし目的もビジョンも戦略も、すべて定性的に考えるしかない基本事項というべきものなのです。

      

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