■AIの発達と人間の学習方法と目標:はじめにビジョンあり

     

1 すでに語られたことが参考に

チャットGPT などのAI技術が発達して、シンギュラリティ(技術的特異点)がやってくるとも言われています。最先端を行く技術者たちのほとんどが、そうなると考えているようです。技術の進歩が加速度的にやってきましたから、実現するのかもしれません。

かつてAIの知能では東大の国語の問題が解けないというお話がありました。今では懐かしい話になっているのでしょうか。この種のこと、詳細はわかりませんが、しかし、すでにおおかた議論されてきたように思います。かつても悲観論、楽観論がありました。

いずれにしても技術は進歩します。そうなって初めて、技術だけではどうにもならないということに気がつくはずです。そのときにどちらに進むべきか。どう対処すべきか。確実なことは言えませんが、すでに語られたことが参考になるのではないかと思います。

       

2 シュンペーターの発展論

シュンペーターはイノベーションによって、経済が飛躍的に拡大しうることを主張しました。古典派経済学では、経済は漸進的に静的に発展するという認識でしたから、革命的な思考の転換ともいえます。ではシュンペーターは、将来をどう予測したのでしょうか。

金森久雄は『大経済学者に学べ』で、この点を一筆書きします。[シュムペーターは企業家精神の力で経済は発展すると主張したが、晩年になって資本主義は崩壊すると言った](p.10)のです。その上で、以下のようにコメントしています。

▼シュムペーターは資本主義経済はイノベーション(技術革新)によって発展すると言ったのであるが、だんだん社会が発達すると、イノベーションも人間の頭によって計算で考えられるようになり、企業家がなくても社会主義的な官僚によって取ってかわられるという一つの誤った考え方が頭の中に湧き出たのだと思う。 p.10

      

3 始めにビジョンあり

[人間の頭によって計算]可能になる点は、今後のAI技術に該当しそうです。しかし資本主義は崩壊しませんでした。官僚主義の傾向も見られますが、今から振り返ってみると、シュンペーターの悲観論は「誤った考え方」と言ってもよいものでしょう。

革新的なことをする個人が生まれてくれば、悲観論に傾く必要はありません。個人個人により、自分の考えを発展させることが不可欠になります。では、自分の考えを発展させるには、どうすればよいのでしょうか。金森はその方法についても語っていました。

▼人間に生まれて一生他人の学説ばかり学んでいてはつまらない。一部は精読し、他は学説史でカバーをする。また全部につき合わず、飛び乗り飛び降りも自由にやる。その程度の気持ちでないと、経済学の波に巻き込まれて、自分の考えを発展させることはできない。 p.11 『大経済学者に学べ』

学ぶべき一番良質なところ、[自分の考え方を助けてくれる点を積極的に摂取すべき](p.9)です。それが優れた洞察に基づくビジョンを生みます。金森は「始めにビジョンあり」(p.5)と言いました。AIが飛躍する時代にも、この点が重要になるはずです。