■ドライバー、エピソード、トリビアの区別:宮家邦彦『ハイブリッド外交官の仕事術』から

     

1 「エピソード」と「大筋」の関係

何か病気に関連したことで、ドクターとお話ししたときに、ああ、そういうエピソードがあったのですねと言われたら、どういう意味になるのでしょうか。意外なほど多くの方が「エピソード」という言葉の実質的な意味が分からないという反応をします。

辞書的な意味ならば、「物語・事件の大筋の間にはさむ話、ちょっとした話題」といったところでしょう。大筋ではない、ちょっとした話題です。重要ポイントにかかわる話ではありません。治療方針の決定に影響を与えない出来事だということになります。

だから自己PRを書くときに、エピソード、エピソードと言わないでと私は言うのです。しかし学生たちは、あいかわらずエピソードを入れてと言われています。言うのは学校の就職指導の方々ですから、人事の専門家ではありません。困ったものです。

     

2 大局の流れを左右する「ドライバー」

ビジネス人でも、エピソードを本筋、大筋にかかわるものだと勘違いしている人が少なくありません。優れた外交官だった宮家邦彦は『ハイブリッド外交官の仕事術』の最終章「大局観の鍛え方」で、ドライバー、エピソード、トリビアの区別を記しています。

[歴史の大局が発生するためには、それに至る一連の流れが必ずあります。その流れを左右するのが歴史の「ドライバー」という概念です]。[しかし、世界中の森羅万象の中からこうしたドライバーを正確に見つけるのは決して容易ではありません](p.265)。

一方、大ニュースではあっても[情勢を決定的に左右する要素ではなさそう]な事象が「エピソード」になります。「エピソード」以下の、大きな流れとは無関係の事象が「トリビア」です。宮家は、トリビアを[明確に区別しています](p.266)と語ります。

    

3 ドライバーを見出す3条件

大切なのは「ドライバー」を見出すことです。しかし簡単ではありません。「歴史は終わった」とか「世界はフラット化する」と論じられましたが、[「ドライバー」であると錯覚]したものであり、[歴史の大局を読み誤った](p.266)ということになりました。

どうすれば「ドライバー」を見出せるのでしょうか。宮家は3条件をあげています。第1に[日常から様々な事象について「ドライバー」か、それ以外]かを自問する癖をつける、第2に歴史に学ぶ、第3に知的正直を貫くこと。まさに王道というべきものです。

宮家は2016年の時点で[世界はグローバル化が進む一方で、十九世紀的な弱肉強食の世界に戻りつつある]と洞察していました。自分の[大局観が基本的に間違っていることを祈るしかないのです](p.271)と、最終章「大局観の鍛え方」を締めくくっています。

宮家邦彦は2013年に、最初の著書『仕事の大事は5分で決まる』を出版しました。これに最終章を加筆して、2016年に文庫に入ったのが『ハイブリッド外交官の仕事術』です。前の本について本人は[結構真面目に書かれている]と記しています。いい本です。

     

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