■大局を見出すための基本テキスト:高坂正堯と岡崎久彦

      

1 高坂正堯『歴史の転換点で考える』

昨日、宮家邦彦の『ハイブリッド外交官の仕事術』について書いたとき、この本が品切れになっていることがわかりました。文庫になってから、もうずいぶん経ちますから、仕方ないのかもしれません。ふと外交に関する本を書いた著者のことを思い出しました。

一人は高坂正堯です。以前、【高坂正堯の現実世界の分析:隠れた名著『歴史の転換点で考える』】を3回続けて書きました。敗けを認めないと変われないとの考えを示し、この点、中国は文化大革命で挫折しているのでうまくいくと予測して、その先を語ります。

▼中国が経済成長に熱中している間はまだよい。しかし、もしうまくいって国力が増大したら、こうした世界観から自分たちが世界に堂々と発言するのは当然だという態度を正面から打ち出してくる可能性もある。 『歴史の転換点で考える』 p.201:1994年

    

2 岡崎久彦自選集①『アジアの中の日本』

もう一人思い出すのは岡崎久彦です。この人の著者について、もっと書いておくべきでした。もはや絶版で、おそらく再販されそうにない本に岡崎久彦自選集①『アジアの中の日本』があります。この本の「はじめに」以下の洞察が忘れられてしまうのは残念です。

岡崎は外務省でも[私の立場がすでに孤立無援である事を知っていたし、牛場さんをクビにした田中、大平内閣の下で働く気もなかった](p.6)。その後も[鬱屈しなければならなかった](p.7)のです。岡崎は激しい言葉で、当時を振り返ります。

▼1978年(昭和五十三年)の日中平和友好条約に至っては日本は全く愚者の楽園の中にいた。中国の目的は明らかに、反覇権主義の下に反ソ共同戦線を組むことだったが、日本側は、今でも文書に残っているが、「日中正常化という仏を作って、これに魂を入れる」などと、わけのわからない事を言っていた。 『アジアの中の日本』 p.7:1998年

      

3 二十世紀末に書かれた現役の文章

岡崎は[何の問題意識もなく、また情勢を見極めようとせず、また情勢を見極めようとせず、ただ次々に変化する情勢への対応だけで漂流してきた日本の情けなさ](p.10)と記しました。日本は幸運に恵まれ、結果としてうまくいっただけだという評価です。

中国側の[成果は反覇権条項]であり、[日本に対して反覇権の御輿を一緒にかつごうと言った]のでした。[日本は、内容を薄めて、かつぐ格好だけならと言い、中国]も了承したのです。しかし[ソ連は日本に対してむき出しの敵意を示し]たのでした(p.9)。

結局、日中平和友好条約は[いまから思えば実はそれは失敗でなく、逆に大成功であった。これによってソ連の脅威が国民の目に明らかになったのである](p.8)と評価されます。結果として日米安保強化が進み、それが日本の安定の基礎となったからです。

宮家邦彦が『ハイブリッド外交官の仕事術』でドライバーか否かを意識せよ、歴史に学べ、知的正直を貫けと主張しました。高坂正堯と岡崎久彦の本は、その実践のための基本テキストになるものでしょう。ともに二十世紀末に書かれた現役の文章です。

     

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