■何で圧倒的な人が出てこなくなったのか:ある画家の問わず語り
1 洋画でも圧倒的な人が出てこない
新型コロナ感染下でも、美術展が行われています。少しずつ最近は増えてきました。コロナ以降も、なんとか途切れずに画家の方々とお話できるのはうれしいことです。ただ、日本トップクラスにある画家であっても、ここしばらくご苦労されていました。
絵に関するお話であっても、それだけにとどまらない話が聞けることがあります。まだ現役の方々についてのお話も含まれていて、生々しいエピソードがありますのでその辺はカットして、ある画家という言い方をしておきましょう。内容はほぼそのままです。
何で圧倒的な人が出てこなくなったのかという話は、たぶんビジネスにも通じることだろうと思います。絵の世界でもここ最近は、圧倒するような画家が出てきていません。とくに洋画の世界では、かつての勢いがなくなってきたと見られています。なぜでしょう。
2 レベルの高い学生を合理的に選抜
圧倒的な人が出てこなくなったというのは、何となく感じることです。残念ですが、たぶん本当でしょう。しかしいまの状況なら、当然そうなるよというお話でした。何も意外なことではなくて、聞くといろいろ考えさせられます。以下、問わず語り風に。
戦後すぐには、私立の美大なんて無試験に近くてね。受験生だって、とんでもなく多くはなかった。試験なんてあってなきがごときだったから、全員合格という感じ。絵なんて描いている時代じゃなかった。それが少しすると戦前から活動していた人が飛躍してきた。
経済的にも少しずつ安定してきたから、そうなると受験生が増えてきてね、教室に入りきれないし、そんなにイーゼルもない。それで筆記試験を取り入れたんだ。全員は無理だから、そこで選抜してから、実技の試験をする。そうすると頭のいい子が選ばれる。
知りあいを見ても、各県の優等生がやってきているからね。美大もすごいということになった。それで絵を描かせてみると、みんなうまい。頭のいい子は絵もうまいんだ。まじめにやることをやるから、レベルが高い。筆記試験をやっても学生の質は落ちないよ。
3 圧倒的な才能の人を伸ばす仕組み
レベルの高い学生たちは、まじめに絵を描き、高いレベルを持っていました。前の世代よりも基礎がしっかりしていて、将来が楽しみな学生がそろっていたようです。この人たちが日本の洋画を支えるはずでした。しかしそうならないのです。以下のように…。
頭のいい人は将来を心配する。卒業後、どうしようかと思う。美大だとだいたいが教師になる。頭がいいから先生になれるわけよ。絵の世界で力を伸ばしていく30代後半から40位の頃、教師の世界でも頼られて管理職になってね、そうすると絵なんて描いてられない。
絵が嫌いなわけじゃないから、50過ぎでまじめにまた絵を描きだすのもいる。個展を開くなんていう連絡も来るんだ。ただね劣等生でやっとしがみついて絵を描いたのと違うからね。いまさらだよ、時期が過ぎている。どうだと言われたって、どうにもならないよね。
劣等生でないと画家になれないと言われたそうです。苦労した人たちに対して社会がどうだったか、画家は語りません。目利きがいたら、ある時期支えたのかもしれませんが、それは例外中の例外だったでしょう。圧倒的な才能の人を伸ばす仕組みがないのです。