■組織の目的:ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』と『非営利組織の成果重視マネジメント』

1 組織の使命・ミッション

『経営者に贈る5つの質問』のもとになったのは『非営利組織の成果重視マネジメント』であった。この本でいう「自己評価手法」とは、5つの質問に基づいた手法である。この5つの質問がそのまま、『経営者に贈る5つの質問』に引き継がれている。

5つの質問の一つずつに、ドラッカーが解説をつけている点で、両書は共通した形式を持つ。解説の総ページ数は、両書とも数十ページにすぎない。非営利組織向けの内容を、営利組織にまで適用しようとして、その結果、例えば以下のように内容が変更されている。

▼すべての非営利組織は人々の生活と社会に明らかな変化をもたらすために存在している。変化を起こすことが使命、すなわち組織の最終目的であり、まさに存在理由である。 『非営利組織の成果重視マネジメント』:p.10

▼組織はすべて、人と社会をよりよいモノにするために存在する。すなわち、組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。 『経営者に贈る5つの質問』:p.26

 

2 非営利組織の目的

非営利組織の人たちに向けてドラッカーは、組織の最終目的が「変化を起こすこと」だといった。それぞれの非営利組織には、異なる使命があるだろうが、[しかし、「生活の改善」が常に出発点であり、到達点である](p.10)という。

現状に変化を起こすこと、それがよりよきものへの改善であることが不可欠である。非営利組織の目的は「現状を改善させる変化を起こすこと」である。しかしドラッカーは、この非営利組織の目的を、営利組織の目的でもあると言いきっていない。

▼アメリカでは非営利組織の数は100万を超える。それぞれがそれぞれのミッションをもっている。いずれも人の生活と人生を変えることを動機とし、成果としている。 『経営者に贈る5つの質問』:p.27

ここでは営利組織ではなく、非営利組織のことを言うのみである。ドラッカーは『現代の経営』で、営利組織の目的を「顧客の創造」であるとしていた。これはドラッカーの中でも一番有名な、中核的な考えである。それを修正しにくかったのかもしれない。

 

3 問題となる「顧客」の概念

「顧客の創造」をすることは、現在では当然、肯定的な概念だと扱われる。しかし金森久雄は『大経済学者に学べ』で、ガルブレイスも『新産業国家』で[企業が顧客を創造するのだという基本的な考え方に立っている]と確認したうえで、注意を喚起している。

▼ガルブレイスはこれを現代の産業社会は企業が支配していると言って否定的にとらえている。これに対し、ドラッカーは新しい企業の役割としてこれを肯定的にとらえたのである。 『大経済学者に学べ』:p.84

さらに大切なことは、金森が「企業の目的」を「企業の役割」と言い換えていることであろう。目的ではなく、役割である。企業の機能として「顧客の創造」という活動がなされる。「顧客の創造」をすることが、企業の社会的な機能であるということになる。

「顧客の創造」という機能は、目的達成の結果を測定するときの基準になっている。「使命・ミッション」が組織の目的だという前提であるならば、「顧客の創造」は組織の目的とは別のものであろう。ただし、ここで問題となるのは「顧客」という概念である。

 

This entry was posted in マネジメント. Bookmark the permalink.