■ドラッカー晩年の経営思想:『経営者に贈る5つの質問』と『非営利組織の成果重視マネジメント』

1 1989年「非営利組織が企業に教えるもの」

ドラッカーは1989年に「非営利組織が企業に教えるもの」を書いた。この論文は『未来企業』に所収されている。ドラッカーの代表的論文と言ってもよいだろう。『P.F.ドラッカー経営論集』にも「会社はNPOに学ぶ」の題名で採られている。

この論文の頃から、ドラッカーの晩年のマネジメント体系が作り上げられていく。非営利組織から学ぶことによって、新しい経営のありかたをドラッカーは思い描いている。使命(ミッション)を重視して、やりがいと成果に対して、各人の責任を重視する。

使命感、やりがい、成果、責任感、こういったものは、ドラッカーの言う「知識労働者」にとって不可欠な要素である。それらを与えてくれる非営利組織の活動から、営利企業も学ぶ必要がある。知識労働者の生産性を上げるには、それが重要だという考えだった。

 

2 『非営利組織の成果重視マネジメント』

2000年に日本語訳が刊行された『非営利組織の成果重視マネジメント』の「まえがき」で、ドラッカーは[1990年に「非営利組織のためのピーター・F・ドラッカー財団」の設立について公表した]と記している。こうしてこの活動が始まった。

▼わたしや、フランセス・ヘッセルバイン、理事会のメンバーたちに、次のような意見が寄せられた。
「自分たちが何をし、なぜそうしているのか、また何を行わなければならないのか、ということについて考えるための手段こそ、私たちにとってもっとも重要なマネジメント手法なのです」(1998年:ドラッカー)

こうした要望に応えて、「自己評価手法」が開発されることになった。それが「5つの重要な質問」である。ドラッカーは言う。「この5つの質問はいかなる非営利組織にとっても重要な問題を提起している」。この5つの質問をここに記す必要があるだろうか…。

もし『経営者に贈る5つの質問』を読んだ人なら、同じ質問であることに気がつくだろう。「われわれの使命は何か?」「われわれの顧客は誰か?」「顧客は何を価値あるものと考えるのか?」「われわれの成果は何か?」「われわれの計画は何か?」。

 

3 『経営者に贈る5つの質問』

ドラッカーは1954年に『現代の経営』でマネジメントを体系化した。1973年に、これを全面的に見直して『マネジメント』にまとめられている。日本では、上田惇生がドラッカーに、もっとコンパクトにすべしと主張して『抄説マネジメント』が生まれた。

1909年生まれのドラッカーは、『マネジメント』の刊行時、60代の仕事盛りだったはず。それから10数年後、80歳になる頃のドラッカーに、もう一度、マネジメントを見直しを言うのは無理だったのかもしれない。その代わり、『経営者に贈る5つの質問』がある。

上田惇生は「訳者まえがき」で、[本書こそ、ドラッカーの全経営思想の神髄である]と書いた。この本に先立つ『非営利組織の成果重視マネジメント』は、ドラッカー晩年のマネジメントの考えを探るうえで、示唆に富む。両者の違いを少し見ていきたい。

 

 

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