■セザンヌを克服するために誤読した画家たち:ストロングとウィーク

       

1 造形という新しい可能性を提示したセザンヌ

セザンヌの語った言葉が、本来の意味とは別な意味にとられたことを少し前に、「理論の裏づけ、正当性の証明のために利用されたセザンヌ」に書きました。セザンヌの絵は多くの画家に影響を与えるだけでなく、新しい絵画を生み出す源泉だったのです。

『セザンヌー近代絵画の父、とは何か?』で永井隆則は、[セザンヌが「近代絵画の父」とみなされたのは、再現(写実、自然主義)に代わって、造形(自立性、表現)という新しい絵画の可能性を切り開いたからだ、という解釈が一般的]だと記しています(p.12)。

『ピカソとの会話』でピカソは「セザンヌ! 彼は、私たちみんなの父親のような人です」と語り、マチスは「セザンヌは、私たち皆の先生です」と語ったとのこと(p.11-12)。セザンヌの絵が画家たちに大きな影響を与えたことは間違いありません。

      

2 規格化されたプロダクトが彩る新しい美的価値

セザンヌは「自然を円筒、球、円錐によって扱いなさい」と手紙に記しました。この言葉が[創造的に誤解されることで、後世代の着想源となっていった](第二部 p.14)のでした。セザンヌの絵と言葉が、次世代の画家を生んだということになります。

永井は[このような歪曲、誤解、創作がなぜ生じたのか]、どんな力学が働いたのかと問いました。最大の原因は、科学技術の発展に伴い規格化されたプロダクトが生活空間を彩るにつれ、[新しい美的価値に基づいて評価し直され]たからだと記しています(p.14)。

これはセザンヌの絵が再評価される面からの解釈です。一方、ドニが[セザンヌを礼賛したのは、自らの制作理論の正当性を証明するためであり、そうした解釈が恣意的なものであったことについては、晩年のドニ本人が認めている](p.4)という点も無視できません。

     

3 ストロングな画家

セザンヌを恣意的な解釈によって礼賛した力学が、どこから来たのでしょうか。ハロルド・ブルームが『影響の不安』で提示した「ストロング、ウィーク」という概念が参考になりそうです。『「運とカン」を磨く』で柳瀬尚紀が、エッセンスを語っています。

ブルームは[詩人というのは絶えず先駆者の詩に影響され、詩そのものが影響の不安である]と言い、[たんに詩の領域で何かちょっと変化をつけるとか、あるいは詩の歴史にある程度の変革をなしとげた詩人]程度では、ウィークな詩人だと認定するのです(p.26)。

▼強い詩人というのは、そういう影響の不安というものを誤読によって克服しながら、そうやって自分たちにとっての創造力のスペースを、空間をだんだん広げていく、クリアしていくんだというわけです。 p.27

[ストロングな詩人というのは、先駆者の影響の不安というものを克服してしまう]、その際、[絶えず“誤読”、読み間違いをすることがストロングな読みである]ということです(p.26-27)。ピカソもマティスもドニも、ストロングな画家ということになります。