■垂秀夫『日中外交秘録』出版記念講演会に行ってきました
1 戦略的互恵関係
垂秀夫元中国大使の『日中外交秘録』は、月刊文藝春秋に連載されたものに加筆され、500頁を超える本になっています。一気に読みました。読む価値のある本です。今回、阿古智子東大教授の主催する講演会に参加させていただき、お話を聞いてきました。
垂大使は、戦略的互恵関係という外交コンセプトの中核を作った人です。その点からすると、14億の中国人すべてを敵に回すのは得策ではないというのが、日本の立場になります。中国当局の見方では、日本は「極」になる大国ではなくなっているとのこと。
現在の当局の受け止め方は、外交の本質は対米関係がほとんどすべてになっていて、現在のアメリカが構築した世界秩序を変えたいという考えであるそうです。上昇気流と下降気流がぶつかり合って、現在、乱気流が起きているという発想であるとのことでした。
2 上昇気流と下降気流という認識
中国当局の認識では、上昇気流の国は中国であり、下降気流の国がアメリカということになります。これからは中国の時代になるのに、何でアメリカについて行くのかという感覚があるようです。時間が自分たちの味方になると考えているということになります。
これは日本に来ている留学生の感覚と、微妙に違っている気がしました。もう10年程、専門学校で留学生に教えてきましたが、彼らの様子を見る限り、中国経済の勢いは落ちています。コロナ後に中国に帰ってきた学生も、経済のことになると、顔をしかめます。
しかし発表される数字は悪くありません。数日前、4-6月期のGDP成長率が年率5.2%と発表されました。21世紀の初めまで、高い経済成長をしていたことはたしかですし、最近でも、出される数字を見れば、中国経済は上昇気流の国だということになります。
3 正確な数字の把握
現実と数字の乖離について、垂元大使は特に言及していませんでした。中国当局の基本的な認識についての説明とは別に、経済にブレーキがかかっているとの話はありました。中国当局が経済について、正確な数字を把握できているのかが気になります。
日本の経営者を見ても、自社の経営指標なしに、適切な判断ができる人など、例外でしょう。正確な数字があるからこそ、安定した経営が可能です。乖離の大きい数字が出される場合、正確な数字が把握できていない可能性があります。この点にリスクを感じました。
じつのところ、上昇気流と下降気流で乱気流が起こっているという中国当局が持っている認識を聞いて、妙に納得したのです。危機感の欠如を感じていました。国内経済の立て直しをしないと、間に合わないはずなのに、中国政府は特別な手を打っていないのです。
垂元大使の話は、日中は助け合いの歴史だというところから始まりました。おおぜいの知人、友人とのやり取りを続けてきた人の話は多岐にわたり、話は尽きません。認識のギャップというのは、どこにでもあるものです。当事者の話は刺激的でした。
