■説明する前提の変化:初学者向けに解説する意義

    

1 アメリカンコーヒーを知らない若者

20歳前後の人に、コーヒーのアメリカンというのが、どんなものかを聞いてみると、知らない人が多くなっています。30代の人が、それを見て驚いていました。こういうことは、めずらしくありません。英語の5文型を知らない若者など、いくらでもいます。

5文型を知らない人に、英語のSVOCという話をしても伝わるはずもありません。5文型を知っている人に、これを手がかりに日本語の文法の話をするなら効果があるかもしれませんが、もはやこの種の説明の仕方では、ほとんどの人に伝わらなくなります。

アメリカのコーヒーは、スターバックスの影響で、薄めのコーヒーのイメージが薄れてきましたし、アメリカンを飲んだことがない人も多くなってきました。授業で5文型の話をさらりと触れる程度ですませている学校も多くなっているようです。

      

2 苦労する「補語」の説明

現実が変われば説明の仕方も変わります。そもそも5文型を知らないのですから、それを説明しなくてはなりません。ところが5文型の説明をしようとすると、案外苦労するのです。補語という概念がよくわからないと言います。これは若者に限らないことです。

抽象性のある概念の説明をするのは簡単ではありません。具体的な事例を使っても、日本語になると状況が違います。「I am Suzuki.」の「Suzuki」は補語のはずですが、「私は鈴木です」になるため、「鈴木です」が補語だという説明ではうまく伝わりません。

英語の授業で5文型を解説するとき、「I」=「Suzuki」が成立すると説明されます。これで何となくわかった気にはなるのです。ところが「She looks happy.」の「happy」も補語ですから、「She」=「happy」という説明では違和感が残ることになります。

     

3 初学者向けに解説する経験が必要

第2文型のSVCを取り上げて、S=Cという説明ではどこかすっきりしないところが残るということは、かなり優秀な方に聞いても同じでした。補語になる言葉は、名詞だけでなく形容詞もありますから、この点がなんとなく違和感を呼ぶのでしょう。

概念の違いがあるときに、これをうまく説明するのは簡単ではありません。渋谷と吉祥寺を結ぶ「井の頭線」の話をするとき、沿線のことをよく知っている人ならば、わかりやすいでしょう。知らない人なら、その駅は何区にあるのかを気にしたりします。

井の頭線を知っている前提で、知らない人に解説をしたら、伝わるはずがありません。しかし、こういうズレた解説をすることがありがちです。何がわからないのかが、わかっていないということになります。わからない人にも伝わる上手な説明が必要です。

若者など初学者向けに、ゼロから説明する経験が必要になると思います。わからなかったら、わからないと言いやすい雰囲気を作って、説明する練習をしてみるしかなさそうです。現在、資料を作ったり説明を工夫しながら、私も苦戦しています。

     

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