■日本語の強調形:「舟歌」の歌詞から

     

1 「舟歌」の歌詞

流行歌のことは、よくわかっていませんし、とくに演歌はまず聞きませんが、「舟唄」という歌は耳に残っています。1979年の作品で、阿久悠の作詞だそうです。あるとき正確な歌詞はどうなっていたのだろうかと思って、でだしを調べてみました。

「お酒はぬるめの燗がいい/肴はあぶったイカでいい/女は無口なひとがいい/灯りはぼんやり灯りゃいい」となっています。ああ、これだと思い返しました。4つの似た形式のフレーズが並んでいて、これらの文構造がどうなっているのか、気になったのでした。

小学校などで、いまは知りませんが、主語はどれですかという問題が出されていたはずです。「お酒はぬるめの燗がいい」という文の主語は何になるのでしょうか。たぶん「お酒」か「ぬるめの燗」のどちらかになりそうです。多数意見なら「お酒」でしょう。

      

2 言葉を前に出して「は」をつける

漢文では通常の語順を崩して、選択した言葉を先頭に出すことによって強調形になります。日本語では、強調の形式がどうなっているのか、明確ではありません。しかし強調したい言葉を前に出すというのは、共通性のある作用を持つといえそうです。

日本語の場合でも、強調したい言葉を前に出すということになります。その時、強調する言葉に助詞がついていくのが日本語の特徴です。強調を示す助詞があるということになります。それが助詞「は」だと考えることが出来るでしょう。

日本語の強調形の形式は、強調したい言葉を文頭に出して、助詞「は」をつけるというものです。「は」が強調を示す助詞だということになります。「舟歌」の冒頭の歌詞を思い出したのも、あれは強調形を並べたものだなということでした。

     

3 強調・抑制と主体

「お酒はぬるめの燗がいい/肴はあぶったイカでいい/女は無口なひとがいい/灯りはぼんやり灯りゃいい」という歌詞に共通するのは、先頭の「-は」です。「お酒は」「肴は」「女は」「灯りは」がすべて強調になっています。そうなると主語ではありません。

日本語文法では主語という用語が混乱を極めて、もはや使いにくい言葉になっています。ここでは、文末の主体を主語と言っていますので、たんに主体といった方がよさそうです。主体は「ぬるめの燗」「あぶったイカ」「無口なひと」となるのでしょうか?

「灯りはぼんやり灯りゃいい」をどう説明するかが問題です。強調形の前の形を考えてみるとわかるでしょう。「ぬるめの燗のお酒」「あぶったイカの肴」「無口なひと(女)」が主体です。だから最後も「ぼんやり灯った灯りが・いい」が通常の形式と言えます。

いわゆるコンニャク文「コンニャクは太らない」の文末が、「太らない食べものです」からカテゴリーを欠落させているのと同じ構造です。さらに、「あぶったイカの肴」がありきたりだと示すために、「イカが」でなくて「イカで」と抑制した形をとっています。

      

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