■読み書きの基礎:清水幾太郎が学生に出した課題
1 今後も生き残る読み書きの本
読み書きの本の中で、今後も読む価値を持ちつづけそうな本は、清水幾太郎の書いたものだろうと思います。『論文の書き方』が一番知られている本です。さらに『日本語の技術 私の文章作法』と『本はどう読むか』があります。すべて読む価値のある本です。
清水自身の文章が良質ですし、これらの本で説くことは、いわゆる文章読本のように、名文を読めという発想とは違っています。ビジネス人や学術的な仕事をしようとする人にとって、有益なはずです。もはや趣味以外で、文章読本を読む必要はなくなりました。
『本はどう読むか』に、学生に出した課題のことが記されています。講義を聞いただけでは不十分だから、課題を出すのです。そして課題をやらない学生には単位をあげません。清水は[栄養不足に陥らせないための方法](p.56)と言います。不可欠な訓練です。
2 3冊分のレポート作成
清水は講義の最初に言います。何冊かの本を上げて、[このうちの三冊を学生各自が選んで、暑中休暇前に、その三冊の梗概、批評、感想を四百字詰め原稿用紙三十枚以内に書いて、私に提出せねばならない]というのです(p.56)。これは簡単ではありません。
何冊かの本の中に、[E・H・カーの『新しい社会』、同じE・H・カーの『歴史とは何か』、ティンベルヘンの『新しい経済』が含まれていたことは確かである。この三冊は、みな私自身が翻訳したもので、どれも「岩波新書」に含まれている](p.57)とのこと。
良質な新書本を3冊選んで、その内容を記し、批評・感想をレポートにまとめろということです。1冊につき4000文字以内、これを3冊分やれば、栄養不足にならないということになります。大したことないことなのか、大変なことなのか、微妙なところでしょう。
3 読み書きの基礎力テスト
清水は「暑中休暇前に」と指定していますから、このくらいは楽々できなくてはいけないという考えだろうと思います。2カ月以上はありますから、何が問題になるのかということです。もし読み書きの基礎力をつけたいなら、不可欠な訓練になります。
このくらいのことを、学生時代にできるようにしておいたなら、その後もできるはずです。文書と縁のない仕事なら別ですが、ビジネス・リーダーになろうとする人の場合、文書と縁が切れることはないでしょう。そしてこのくらいは楽々できないと困ります。
しかし、これは大変だと感じる人が多くいるはずです。清水が課題に出したことなど、いまや誰も要求しないでしょう。したことがなければ、簡単にはできないということになります。もしやれるようになりたいのなら、いまからでもやる価値がありそうです。
読み書きの基礎をつけたいという人に、清水がおすすめの方法を記してくれています。学生でなくても、効果は期待できるでしょう。本を読んで、そのレポートを書くだけですから、方法はシンプルです。楽々できるなら、基礎は身についていることになります。