■知識の成文化と「根本の原因を探る」発想:ハワード・ユーの『LEAP』

      

1 究極の原因・根本の原因

マネジメントの本となると、どうしてもアメリカ人の書いた本が目立ちます。香港出身でスイスのビジネススクールIMDの教授であるハワード・ユーの『LEAP』は異色の本かもしれません。ハーバードでの指導教官はクリステンセンだったそうです。

ユーは[なぜわたしは水を飲むのか]と問い、「喉が渇いているから」という答えは「本当の理由」「究極の原因」ではないと言います。[本当の理由は、水が栄養素やミネラルを分解し、それらを体じゅうに運ぶのを助けるからだ](p.44)とのこと。

この考えのもとには、根本の原因が重要なのだという発想がありそうです。[因果関係の連鎖をさかのぼって][根本の原因を探るのである]と記しています。哲学的な訓練をしていない人の、素朴な発想でしょう。しかし、ここで大切なのはその先の展開です。

     

2 「職人技→大量生産→オートメーション」

ユーは『LEAP』でスタインウェイとヤマハの「日米ピアノ戦争」を取り上げています。[ピアノ製造や繊維業界で見られたプロセス]について三つの段階を上げて、ヤマハがスタインウェイより優位にたった「究極の原因・根本の原因」を見出しているのです。

3段階とは、[経験を積んだ専門家が直感的な判断を行う]【職人技】の段階から、[技術者が標準化された手順に従う]【大量生産】の段階に進み、[先進的な機械により人間の関与が最小限になる]【オートメーション】の段階に至るプロセスを言います。

[ヤマハは標準化と精密製作]を行い、[ピアノを生産するのに必要な期間が二年からわずか三カ月に短縮され]、まずは[ローエンドの市場向け]で[足場を固める場所とな]りました。一方の[スタインウェイは職人技にこだわり続けた]のです(p.46)。

     

3 知識の成文化のプロセス

標準化された手順での生産では、はじめのうちは職人技にかなうわけがありません。しかし[かつては限られた職人の頭の中にだけあったノウハウが、後世の人達のためにどんどん文書化されていく][「知識の成文化」のプロセス]が進みます(p.45)。

[成文化された知識は、それを誰かが借用したり、模倣したり、盗んだりすることによって簡単に広まっていく]のです(p.45)。こうした図式は、かなりの程度、成り立ちます。したがって、ノウハウを成文化し、業務マニュアル化する必要があるのです。

▼スタインウェイでは、昔ながらの伝統的な製造にこだわっており、演奏家が熱望する優れたハイエンドの楽器を、熟練の職人が深い専門知識と手腕を使ってつくりあげていた。ここには、職人技の段階の特徴が表れていて、人間の直感と専門家による判断が基準になっている。 p.45

これがスタインウェイの強みでした。しかし、これだけでは売上が伸びません。同時にヤマハ側も[熟練の職人が深い専門知識と手腕を使]うことが不可欠です。『LEAP』は大枠を見るときの参考書でしょう。実際の話は、こんなにシンプルではありません。

      

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