■シュンペーターのイノベーション理論:原典と解説書

    

1 『経済発展の理論』第二章「経済発展の根本現象」

古典的な本を読むことは意味のあることです。しかし簡単には理解できません。シュンペーターの本ならば、『経済発展の理論』第二章「経済発展の根本現象」のみを読めばよいと塩野谷祐一が語ったそうです(藤原敬之『日本人はなぜ株で損するのか?』p.82)。

とはいえ、この章を読むだけでも苦労します。なぜ苦労するかと言えば、その後のわかりやすい解説に比べて、説明が丁寧ではないからです。最初から洗練された理論が提示されているわけではありません。これは仕方のないことです。フランク・ハーンは言います。

▼すでに亡くなった人が言ったことで価値のある部分は、その時以来吸収されて久しいし、もしも再度言わなければならぬとすれば、われわれは概して以前よりも上手く言うことができる。 (『現代経済学の巨星』下:p.291)

      

2 原典+解説書・概説書

すべての古典を原典で読もうとしていたら、大変なことになります。これはというものだけを選んで、挑戦すべきでしょう。本気で読むべき本を選択していかないと、際限がなくなります。そのうえ残念なことに、われわれの実力ではたいてい誤読するのです。

自分の興味ある分野ならば、読みながら理解を深めていくことは楽しみになるはずですし、その価値もあることでしょう。同時に、入門書や解説書を読めば理解は進みます。質の良い概説書を選んで、丁寧にその内容をたどっていくことは大切なことです。

具体的には、ある程度、内容をつかんでから原典を読むか、あるいは原典を読んでから、読み間違いに気づくために解説書を読むということになります。実際、シュンペーターの『経済発展の理論』のイノベーション理論に関しては、解説書の説明の方が上手です。

     

3 夏休みの宿題:シュンペーターのイノベーション理論の理解

すぐれた解説書・概説書が整備されているならば、それらだけでいいのではないかという気さえしてきます。それで満足ならば、ひとまず良いのかもしれません。しかし、ある程度きっちり話を詰めようとしたら、本にどう書いてあったか、確認したくなります。

あるいはまた、解説書の中で、どれが優れているかを知るためにも、原典をきっちり読んでおくことが必要です。解説書・概説書の良し悪しには、極めて大きな差があります。どの解説書に依存するかで、勝負が決まると言ってもよいくらいの違いがあるのです。

幸いシュンペーターのイノベーション理論については、優れた解説書が何冊かあります。ビジネス人も関心があるならば、原典となる『経済発展の理論』第二章「経済発展の根本現象」を読み、解説書・概説書を使って、理解を深めることは価値あることです。

夏休みに、何を勉強したらよいだろうかと聞かれたので、私はもう一度、シュンペーターのイノベーション理論について考えてみたいと思っていますと答えました。これを押さえれば、その後に出たイノベーションの本も理解が進むはずです。そう期待しています。