■ホンダジェットの成功から学ぶべきこと:問われるリーダーの実力

     

1 ホンダジェットの成功要因

ホンダジェットが好調のようです。かなり早い時期に、これは絶対成功すると、ホンダと特別な関係にある方から聞いていました。詳しい話は、前間孝則『ホンダジェット』にあります。リーダーの藤野道格(ミチマサ)と藁谷篤邦(ワラガイ・アツクニ)に焦点を当てた本です。

ホンダジェットには、特別お金と人をかけていました。[このようなやり方が許容される会社など、世界を見渡しても、ホンダをおいてほかにはないだろう]とGEから言われ、[トヨタさんは、まあしばらくはちょっと]だったと藁谷が語ります(pp..253-254)。

多くの事業は「技術は良かったが、経営やマーケティングがダメだった」とごまかされがちです。しかし[クルマの世界だったら、たとえ技術が良くても売れなければ、そのプロジェクトは失敗したということ](p.357)だと藤野は語ります。厳しさが違うのです。

      

2 否定される“ワイガヤ”方式

会社自体が普通の日本の会社とは違います。[ホンダ エアクラフトはホンダの100%子会社ではあるが、米国籍の法人組織]です。[日本人の従業員数は極めて少なく]て(p.350)、国産というのは妙な感じがします。それだから成功しているのでしょう。

[ホンダの良き伝統とされた、忌憚のない意見をぶつけ合う“ワイガヤ”方式]について、藤野は[客観的に振り返ると、航空機の開発においては、そういうところから良いアイデアなどが全く生まれていないことに気づきました](p.345)と否定的です。

内容が高度化すれば、[まだ知識や専門性のない多くの人がそうした会議に準備もなく来て議論したとしても、生産的な結果はまったく出ない](p.345)でしょう。会議をやめれば[誰が一番重要な人なのか]がわかります。相談の際に、実力がものをいうのです。

     

3 問われるリーダー個人の能力

圧倒的な実力者がトップに立たない限り成果は期待できません。[『自分が限界までやれば、これだけの仕事ができる』というような人たちが集まって、初めて大きな仕事ができる]のです。個人に力があれば、協調によって成果が期待できると、藤野は言います。

▼『一人の人間でも、結構なことができる』と思っている人が五人集まれば、そのときに初めてちゃんとした仕事ができるのです。初めから一人じゃできない、みんなで協力してやりましょうと言っていたら、それは絶対にだめだと、私は思っています。 p.394

藤野の言う通りです。一人でできない人が、「みんなで…」と言うのでしょう。成功しているアメリカのメーカーでは、[すべてのことを、そのプロジェクトの成功のためにという基準で、ボスの判断でできるようになっている](p.337)とのことでした。

[ぐいぐい引っ張っていく強いリーダーがいないと、「飛行機の開発で戦っていくことはできないのではないかと自分は感じていました」と藤野は振り返る](p.339)のです。飛行機の開発に限らず、今後、リーダーの実力が徹底的に問われることになるでしょう。