■国語の基準の確立とコンピューター化:梅棹忠夫『あすの日本語のために』のポイント

     

1 梅棹忠夫のある種のヒラメキ

梅棹忠夫は『知的生産の技術』を書き、じつは西堀栄三郎の『南極越冬記』も西堀の資料を基に書いてしまったという文章に達者な学者です。たんに文章がわかりやすいだけでなくて、アイデアが優れています。いまでも『知的生産の技術』の内容は死んでいません。

そういう人の言うことですから、ちょっと気になるのですが、日本語に関する発言には、とてもついていけないところもあります。しかしついていけないところは無視しましょう。この人の文章には、ある種のヒラメキがあります。それを参考にすべきでしょう。

梅棹の『あすの日本語のために』は5つのパートにわかるています。ⅠとⅡはローマ字がきの話、Ⅲはコラム、Ⅴはもう一つの標準語についての話です。これらはひとまず関係ありません。ここではⅣのなかのポイントについて書いておきたいと思います。

      

2 「正しい日本語」=「整備された言語」=「国語の基準が確立した言語」

1970年執筆「現代における国語と国語教育」は梅棹の講演をもとにした文章です。日本語の場合、近代語では考えられないことだが、標準語が確立しておらず、確立した文法もなく、決まった正書法がないと言い、「整備された言語」ではないと指摘しました。

おなじく1970年の[「講座 正しい日本語」に期待する]という文章では、[ただしい日本語を確立しようという努力はすこしたりなかった]と指摘します。「正しい日本語」=「整備された言語」=「[国語の基準の確立]した言語」ということです。

日本語の場合、[基準の確立という点では、少々のんきすぎた]と指摘しています。「現代における国語と国語教育」で語った[文法もゆらぎがおおきく、正書法も確立していない]点の整備が問題です。梅棹は、次の段階がくることを指摘していました。

      

3 大量の情報が作られ処理され蓄積される時代

「現代における国語と国語教育」で、日本語も[コンピューター段階にはいっています]と語っています。そうなると[大量の情報がつくられ、処理され、蓄積される時代になって][情報がうごいている]点が大切になるということです。

1970年の段階ではまだ「カナモジかローマ字」が使われていましたから、[日常用いている言語体系]と大きく違っています。[情報をめぐる技術において、巨大な変革がおころうとしてい]て、[現代日本文明は、おおきな転換点にさしかかって]いました。

このとき梅棹は、書き言葉の日本語のほうを大きく変えていくべき時期だと見ていたのです。しかしその後、ワープロができて、機械の側が日常用いている言語体系に近づいてきました。こうした経緯の中で、自然に基準の整備が進んでいったのです。

日本語を変えた大きな要因は、機械入力が容易になったことでした。この過程で実質的な基準が確立されていったのです。「日本語にみる近代化」に[日本語文法にはまだこんな基礎工事さえもできていなかった]とあります。やっと文法の確立条件が整ったのです。