■行動様式は変わらないのか:小室直樹の分析とウクライナ侵攻
1 1980年『ソビエト帝国の崩壊』と1984年『ソビエト帝国の最期』
ご存知の通り、ロシアがウクライナに攻め込んでいます。どうも嫌な感じはありましたが、こうした展開が予測できたわけではありません。逆に予測できないと思っていました。もう少ししないと、実際の経緯が見えてこないのではないかと思います。
1980年の小室直樹の発言について少し前に書きました。テレビでの発言録に残っていたものですから、まさに一言コメントです。大切なポイントは、権威主義、専制主義になると組織の柔軟性がなくなって、方針の転換、修正がきかなくなるという点でした。
小室には1980年の『ソビエト帝国の崩壊』と、1984年の『ソビエト帝国の最期』というソ連分析の本があります。『崩壊』のはしがきで、[未来戦もの]の[大部分の設定によれば、ソビエトは、ただなんとなく攻めてくることになっている]と書いていました。
2 ウクライナ問題でも変わらない構図
1979年のソ連のアフガニスタンに侵攻について、小室は『崩壊』に書いています。[アフガニスタンにソ連が出てきて、ソ連が悪いと言うが、これはアメリカが悪いのだ。ソ連が出てきたら、アメリカは「殴り返すぞ」とはっきりさせないから出てくるのである]。
今回のウクライナ侵攻はアフガニスタン侵攻を思い出させます。[「入ってきていけないのなら、どうしてそれを早くいわないのか」]、[実際にアフガンに入って]から[ギャーギャー騒ぎ始めるなんて、カーターはバカじゃなかろうか、とソ連は思っている]。
ではなぜ、ソ連は攻め込んだのでしょうか。『最期』のはしがきに、小室は書きます。[アフガン侵攻は、侵略主義のあらわれてはなくて、ソ連の致命的弱点をかばうための、やむにやまれぬ自衛戦争である][ソ連を守るための自衛戦争なのである]。
構図はあまり変わらないのかもしれません。今回もアメリカ側の対応がアフガンのケースと類似していました。攻め込むロシア側のロジックも、侵略というよりも自衛が根底にあったようです。その結果がどうなるか。ロシアの弱体化ということになるのでしょう。
3 なかなか変われない組織・個人
小室は『最期』のはしがきに、[この戦争に、「世界一」のソ連軍は敗けつづけ]と記していました。ロシア側は、今回もウクライナの抵抗が予想以上に強いことに、いらだっているとの報道もあります。どうやらロシア側に時間は味方しそうにありません。
ウクライナ侵攻をめぐる問題でも、40年以上前の、ロシアならぬソ連の行動様式が妥当してしまうことに驚きを感じます。国家という組織の行動様式は簡単に変らないのかもしれません。小室の分析を補助線にして、現在進行形の事態を見ていきたいと思います。
なかなか変われないというのは、ソ連・ロシアの問題だけではなさそうです。国家でも、会社組織でも、個人でも同様でしょう。今回、日本は国としてどう動くのか、あるいは「自分は必要に応じて変われるのか」と問われているように感じます。