■日本語の文法分析の実際:主役と文末
1 日本語の文法的分析のツール
日本語のセンテンスにおける文末を、述語にかわる概念としてとらえたほうが、日本語を文法的に分析するときに役に立ちます。日本語の文構造は、文の終わりに重要なことが語られる形になっていますから、述語や文末を重視するのは当たり前のことです。
文末の主体をセンテンスの主役と考えるなら、主役と文末が対応関係になります。これによって日本語の背骨が見いだされることでしょう。このことを意識することによって、日本語の論理構造が明確になります。読み書きの基礎になるということです。
読むときには、書いた人の論理構造が明確になり、書くときには、自分の文章の論理性を確認することができるようになるようになります。標準的な手法で、日本語の文法的分析ができるなら、それが文章の読み書きの訓練になるということです。
2 日経新聞の社説が適切な素材
ふだんあまり意識しないで文章を書いていますから、文法的な分析をしてみると、自分の文章のいい加減さに嫌気がさすことがあります。まずは思い通りに書いて、それを後から修正すれば、それで十分なのですが、いちいちそんなことはやっていられません。
ときどきこうした検証を行うことによって、知らないうちに身についてくるものがあるはずです。ここ数年、文法的分析をするときの素材として、日経新聞の社説の最初のブロックを使っています。ビジネス人に限らず学生にも、適度に問題点があってよいものです。
社説ですから、文章的には問題ないと思いがちですが、時にはおかしな文章もあります。ただ、おかしいと指摘するのが目的ではありません。具体的に見てみましょう。2021年11月2日の「金融機関は中国リスクの念入りな点検を」は、以下のようにはじまります。
▼米欧日の銀行や証券会社、資産運用会社が中国本土の業務を競って拡充している。世界第2位の巨大な経済圏は成長戦略に欠かせない市場とみているからだ。情報管理などの観点から中国業務を見直す動きも出ている製造業やIT(情報技術)企業と比べ、積極的な姿勢が際立つ。
文章の最初のブロックを、ジャーナリズムの世界ではリードと呼んでいます。新聞記事では、最初の部分に大切な情報が示されるはずです。この社説でも、製造業やIT企業と違って、金融関連の企業が中国の業務を拡充していると、重要な指摘がなされています。
3 文の構造が見えるかどうか
個別で見ていきましょう。「米欧日の銀行や証券会社、資産運用会社が中国本土の業務を競って拡充している」の文末は「競って拡充している」です。この主体は「米欧日の銀行や証券会社、資産運用会社が」でしょう。問題ありません。では、次はどうでしょうか。
「世界第2位の巨大な経済圏は成長戦略に欠かせない市場とみているからだ」の文末は、「みているからだ」だけではありません。助詞「と」は「+」を表しますから、その前の部分も文末に吸収されて、「成長戦略に欠かせない市場とみているからだ」になります。
この文末の主体はどうでしょうか。「誰が」が想定されます。その前の「世界第2位の巨大な経済圏は」は主役ではありません。主役は「米欧日の銀行や証券会社、資産運用会社が」でしょう。「…経済圏【は】」は強調。「世界第2位の巨大な経済圏【を】」です。
「世界第2位の巨大な経済圏は成長戦略に欠かせない市場とみているからだ」という文は【米欧日の銀行や証券会社、資産運用会社が/世界第2位の巨大な経済圏を/成長戦略に欠かせない市場とみているからだ】という構造です。これがわかれば問題ありません。