■主語という概念:一般用語としての使用法と文法概念 (その2)
4 一般用語の「主語」に依存する学校文法
学校文法の場合、主語の説明をするとき、一般用語としての主語に頼って説明しているようです。主語を明確に定義していません。その結果、明確な定義がないにもかかわらず、何となくわかった気になりますが、主語概念が統一的に把握できないままでいます。
今後もこのままの状態で主語概念が明確にならないかもしれません。こういう場合、逆に一般用語の概念から共通の基盤となる要素を見出して、どこまで広がりのある概念であるのかを探って、領域設定をしていくアプローチのほうが有効かもしれないのです。
そのとき4つの類型が問題になります。私たちが主語を意識するとき、対象として「誰(who)・何(what)・どこ(where)・いつ(when)」の類型を使っています。これ以外の類型を使うことはないはずです。では4つは同等の類型でしょうか。そうではないようです。
5 5W1Hと主語概念
5W1Hという言い方があります。「誰(who)・何(what)・どこ(where)・いつ(when)」に加えて、「なぜ(why)」と「どのように(how)」の類型が示されています。これら2つは主語概念となじみません。理由や手段は文の主語ではなく、条件というべきものです。
主語概念というのは、人間を中心にした生き物と、周囲にある物や事の名称が中心になっています。「どこ・いつ」は少し違う概念です。この点、カントが経験を可能にするように条件づけるアプリオリ(先験的)な概念としてあげているのが空間と時間でした。
何かを経験したり、ある出来事が起こった場合、それはある場所で、あるときに生じるということです。当事者たちのあれこれに先だって、経験や出来事の生じる条件として、空間と時間があります。両者は客観的な基準になるものですから、安定性があります。
ただ、私たちが「どうする」「どうした」という言い方で出来事を語る場合に、主語となる対象概念の類型は、「誰(who)・何(what)」に限られたものになるはずです。「誰が・どうする」「誰は・どうした」「何が・どうした」「何は・どうする」となります。
6 主語概念のグラデーション構造
一般用語としての主語の場合、あそこはどうしたこうしたと語っているとき、「どこのこと?」という言い方になるでしょう。「主語はどこ?」とは言いません。同様に、「主語はいつ?」と言わずに「いつのこと?」「いつの話?」という言い方になります。
「どこのこと?」というのは、文法の主語概念を問う場合、主語となる場所がどこであるかを問うているはずです。一方、「いつのこと?」「いつの話?」の場合、主語としての時を問うのは例外であって、多くの場合、条件を問うているということになります。
「~する」の場合、主語の対象は「誰」を中心に「何」も含む類型です。「どこ・いつ」は除外されます。「どこのこと?」という形式で主語を問うことはよくありますが、「いつのこと?」という形式で主語を問うのは例外であり、条件を問うのが一般的です。
以上のように、主語概念には「誰(who)・何(what)・どこ(where)・いつ(when)」の類型があって、主語になる概念にはグレードがあります。類型順に「誰(who)>何(what)>どこ(where)>いつ(when)」という主語概念のグラデーション構造があるということです。