■時間についてのマネジメント:計画におけるグレシャムの法則

    

1 『プロフェッショナルの条件』に加えるべき視点

マネジメントで時間を重視した典型といえるのは、ドラッカーの『経営者の条件』かもしれません。この本のエッセンスに加えて、その後にドラッカーが発展させたものまで所収してまとめた『プロフェッショナルの条件』はベストセラーになりました。

編集した上田惇生先生に、この本は『エッセンシャル版 経営者の条件』を含んでいて、それが核になっていますね…と申し上げたところ、「そうなの」というお答えでした。何人かの人に、この本のパート3を読んでみたらとお勧めしたことがあります。

時間に関する考え方として、このパート3に加えて、ぜひ知っておくべきものがあります。ハーバート・サイモンの『オーガニゼーション』にある「計画におけるグレシャムの法則」です。この視点は組織でも、個人であっても有効に働く重要な考え方といえます。

     

2 計画におけるグレシャムの法則

グレシャムの法則というのは「悪貨が良貨を駆逐する」という言い方で説明されています。金・銀の含有量の低い悪貨が流通すると、含有量の高い良貨を手元に置いておくようになるため、流通するのは悪貨が中心になってしまうという話です。

『オーガニゼーション』における「計画におけるグレシャムの法則」では、悪貨にあたるものが日常のルーティンであり、良貨にあたるものが創造的活動の計画ということになります。ルーティンが創造的な活動をすることを邪魔するということです。

『オーガニゼーションズ』はJ.G.マーチとH.A.サイモンによる共著でした。いまでは高橋伸夫訳で出版されています。私が読んだのは土屋守章訳でした。絶版になっていたため古本で入手したものです。率直なところ、読んでもよくわかりませんでした。

新版が出たので、そちらものぞいてみましたが、やはりわかりやすいものではありません。いずれにしろ、ここで示された「計画におけるグレシャムの法則」は仮説です。1958年出版の本ですから、仮説が現実と多少乖離があっても不思議ではありません。

      

3 時間に関するマネジメントの基本概念

沼上幹は『組織戦略の考え方』の中で、「計画におけるグレシャムの法則」を簡潔に説明しています。「ルーチンワークは創造性を駆逐する」というフレーズなら、伝わるはずです。もうすこし踏み込んで、簡単な説明が付されています。これで十分な気がしました。

▼日々ルーチンな仕事に追われている人は、ルーチンな仕事の処理に埋没して長期的な展望とか革新的な解決策とかを考えなくなってしまう、ということである。
膨大なルーチンワークが存在し、それに追われている状況というのは、背後に何らかの構造的な要因があることを意味しており、本当は何が本質的に問題なのかを考えなくてはならないはずなのに、それを考える余裕がない。 p.29

こうした発想をマネジメントに取り入れたら、組織の対応も変わってくるはずです。あるいはより一層、個人の働き方に関わってくるように思います。黙っていれば、新しいことをしなくなるのです。創造的であるためには、意識した時間配分が必要になります。

時間を確保して計画を立てるときに、ルーティンな仕事の処理だけでなく、新しいことをするための時間を、意識して組み込んでおかないと、イノベーションも改革も起きません。時間についてのマネジメント概念の中でも、一番基本になる考えだと思います。

    

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