■ドラッカー『乱気流時代の経営』を読む(その1)

1 1980年に出版されたドラッカーの本

P.F.ドラッカーの『乱気流時代の経営』が出版されたのは1980年でした。1993年出版のパーパーバックス版に、ドラッカーは「はじめに」を書いています。

あらゆる組織の人間にって、この乱気流の時代においていかにマネジメントするかを知ることが緊急の課題である。
したがって本書の内容は、初めて刊行された当時よりも、今日においてこそ、さらに適切であるといえる。

ここでいう「乱気流の時代」というのはどういう状況の時代なのでしょうか。「はじめに」でドラッカーは振り返っています。

第二次大戦後の25年間は、「プランニング」全盛の時代だった。プランニングは、継続性を前提とする。プランニングは、昨日の趨勢からスタートし、それを明日に延長する。組み合わせは変わるが、項目や概念はほとんど同じままでよい。
しかし、もはやそのような方法は無効である。乱気流の時代にあっては、最も妥当な前提は、構造そのものを変える特異な事象が生起することである。しかるに特異な事象は、その本質からして、プランニングの対象とならない。

現在でも状況は変わっていないようです。新たな上田惇生訳の日本語版の出版が1996年でした。それから20年たっています。あいかわらず今日において適切な内容であるでしょうか。

 

2 事業存続と成功にかかわる3つの基礎

ドラッカーは「はじめに」で、[本書は、急激な変化を機会に転換するうえで必要な戦略について述べる]と記します。つまり、[重大な変化が生起しうる領域を予期し、それがいかなる変化であるかを予期するための戦略]を述べているということです。

乱気流の時代におけるファンダメンタルズのマネジメントは、事業の存続と成功にかかわるファンダメンタルズから始める必要がある。それは次の三つである。
(1) 手元流動性
(2) 生産性
(3) 事業継続のコスト

手元流動性とは、企業の余裕資金の大きさです。[株式市場は正しい。乱気流の時代においては、利益よりも流動性のほうが重要だからである]と記します。ただし[インフレ下においては、利益よりも流動性のほうが頼りになる評価基準である]と言うのです。現在はインフレというよりも、デフレ傾向にあります。どう解釈したらよいでしょうか。

乱気流の時代にあっては、パニックや急激なデフレを生き抜くためには何を行うことが出来るか、そして、何を行うべきかを、徹底的に検討しておく必要がある。
そのような状況においては(中略)資金力、支払い能力、流動性を重視しなければならない。
流動性自体は目的ではない。しかし乱気流の時代には、それは企業存続の条件である。生存のための条件である。

どうやら「インフレ下においては」という条件は不要だったようです。こうした流動性が重要だという前提は、現在も変わっていないと言ってよいでしょう。あるいは、この前提はいまや共有されていると言うべきかもしれません。問題は生産性にありそうです。

 

3 生産性に基礎を置く経済学

「生産性」についてドラッカーは重要な指摘をしています。[われわれは、経済学が有効たりうるためには、その基礎を価値の源泉としての生産性に置かなければならないことを知るに至っている]。ではどういう経済学が必要なのでしょうか。

[19世紀の労働価値説は、間違っていた]のは当然ですが、[今日のケインズ学派やフリードマン学派において頂点に達した没価値の経済分析という雄々しい試みも、失敗であることが明らかになっている]というのです。

現在のアベノミクスに至るまでの経済学がまさに「没価値の経済分析」です。これが失敗なら、どういう経済学が必要なのでしょうか。

われわれは、価値論に基礎を置く真の経済学を必要とする。そしてそのような経済学は、「経済価値の源泉は生産性である」という公理の上に立つことになる。(pp.13-14)
経済成長がみられた国では、つねに生産性を向上させるための意識的なマネジメントがあった。それは、製造業においてだけではなかった。(p.14)
この生産性の爆発的な伸びが、経済と経済学を変えた。(p.15)

これはいささかわかりにくい表現です。2つのことが語られています。(1)「没価値の経済分析」から「価値論に基礎を置く真の経済学」への転換と、(2)生産性を向上させるマネジメントの必要性です。

ドラッカーはこんな重大な提言をしながら、おわかりの通りとでも言いたげに、ヴェーバーもシュンペーターも登場させずに、あっさり話を進めています。また「生産性」という言葉もややニュアンスが古くなりました。投入資源から生み出す付加価値の効率という意味でしょうが、いまでは「付加価値」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。

高い付加価値を生むための経済学が必要だということでしょう。これが一つのポイントになりそうです。 (この項続きます。⇒ 「その2」 ・「その3」)

 

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